日経ライブレポート「ジェイク・バグ」

ジェイク・バグの2012年に発表されたデビュー・アルバムの衝撃は大きかった。18歳の少年とは思えない存在感、圧倒的な曲のクオリティー、しかも多くの人に支持されるスター性もある、そんな彼の登場に市場は熱く反応してアルバムはチャートの1位に輝いた。

しかしその成功と彼はデビュー以降闘うことになる。あまりにデビュー時の成功が大き過ぎると、それがプレッシャーになる場合は少なくない。ノラ・ジョーンズもそうだった。ジェイク・バグもデビュー当時の自分自身がライバルとなる。ただ彼はデビュー時の大成功を冷静に分析する知性を持っていた。成功に舞い上がることもなく着実に自分のキャリアを重ねていった。それはライヴのスタイルによく現れている。アコースティック・ギターの弾き語りから始まり、その後バンドと共に演奏する流れはデビュー当時から変わっていない。そしてそのバンドのメンバーも昔からの仲間が中心になっている。

今回のステージもそうだった。しかしライヴ後半になってくると、これまでの彼のステージとは少し違うハードで骨太なグルーヴが感じられた。それは最後から3曲目、最新アルバムのナンバー「ギミ・ザ・ラヴ」で頂点に達した。今まで観たことのない成長し、スケール感が広がった大人のジェイク・バグがそこには居た。ライヴは結局「ブロークン」「ライトニング・ボルト」というデビュー・アルバムに収められた彼の代表曲が歌われ終わった。でもその2曲の役割はこれまでのライヴとは違っていた。その曲に頼ることなく、むしろライヴの余韻の中で聴かせる余裕が今の彼にはあった。

5月18日、赤坂BLITZ。

(2017年6月13日 日本経済新聞夕刊掲載)
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