日経ライブレポート「カイリー・ミノーグ」

2011年のポップ・ミュージック・シーンにおいて、正統的にかつ継続的にアイドルである事はとても難しい。それを唯一といっていいくらい実現しているカイリー・ミノーグのステージは素晴らしかった。

例えばマドンナにしろレディー・ガガにしろとても現代的なアイドルであるが、いわゆる正統的なアイドルではない。むしろ異端であるからこそ成立しているアイドルといっていいだろう。正統的アイドルとは、あくまで可愛らしく、ファンの幻想を裏切る事のない綺麗事の世界を守ってくれるものではなくてはならない。それが困難になったのは、誰もがそんな綺麗事は嘘だと知ってしまったからだ。誰もが嘘だと知っている中で嘘を貫くのは本当に難しい。

歌手デビューしてから24年、42歳の現在に至るまでブレる事なくまっとうなアイドルであり続けて来た。それを可能にして来たのは、容姿のキープ、楽曲のクオリティー向上といった、不断の努力である。そして一番重要なのは正統的アイドルであろうとする強固な意志だ。例えばセクシーなイメージも、決して過剰にならず、時代の温度を見ながら提供していく。

ダンスもモダンな手法を取り入れながらも、基本は古典的なアイドル美学をはずさない。それは今回のステージでも貫かれていた。レディー・ガガのかっこ悪い事がかっこいいという批評的なアプローチには決して向かわないのだ。日本で言えば松田聖子が路線を変えず、未だにチャートの1位に輝き、ドーム・ツアーを続けているようなものだ。それを世界的規模で実現しているパワーを見せつけたライヴだった。

4月24日 幕張メッセ

(2011年5月18日 日本経済新聞夕刊掲載)
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