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    アトムス・フォー・ピースを観る

    アトムス・フォー・ピースを観る

    フジロックで観て余りの素晴らしさに興奮し、アルバムを聞いてその興奮にターボがかかり、勢い余ってレディオヘッドよりこっちの方がいいと原稿に書いて、ファンから怒られ、そんなこんなでめちゃくちゃ楽しみにしていた単独ライブだった。
    アトムスはライブで最もその魅力を発揮するバンドだ。それは一度でも彼らのライブを体験したことがある人なら、同意してくれるはずだ。
    あの動き回るトム・ヨークを見れば分かるように、このバンドの最大の魅力は肉体性である。
    肉体の刻むビートの有機的な結合、つまりグルーヴが命のバンドだ。
    しかしグルーヴと簡単に言うが、今のロック・シーンにあって、グルーヴィーでありながら革新的であるのはとても難しい。レディオヘッドが凄かったのは、それこそロック史の中で何十年に1回しか起きないかもしれないグルーヴの革命、ロック・ビートの革命を実現したことだ。
    ロックは明らかにレディオヘッド以前と以後で変わった。それについては前に原稿に書いた。そしてトム・ヨークはアトムス・フォー・ピースで、よりその革命を別の文脈で進行させてみせた。コンピュータで打ち込んだ音を肉体によって再現するというある意味倒錯的な方法論から生まれた音は、まず本人達を興奮させ、次に聞く僕たちに体験したことのないグルーヴ快感を与えてくれた。アトムスのライブには、一種原初的な音楽的快感がある。高いロック・リテラシーを要求するところはレディオヘッドと共通するが、ロックなんて聞いたこともない場所でも有効な普遍性とエネルギーを同時にもっている。前衛を突き詰め普遍性を獲得した奇跡的なバンドだ。
    100年後の未来に対して有効なだけでなく、100年前の過去に鳴ったとしても有効だと思わせる普遍性がある。
    今日もトム・ヨークはよく動いた。僕もよく動いた(笑)お客さんはみんな良く動いた。踊るというより、もっと人間の原初的な動きたいという衝動を突き動かすグルーヴなのだ、アトムスのグルーヴは。
    しかし今週は凄い一週間だ。
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