なぜ宮本浩次は止まらずに走り続けるのか(コラム『激刊!山崎』より)

なぜ宮本浩次は止まらずに走り続けるのか(コラム『激刊!山崎』より)
宮本浩次にインタビューを行ったのは代々木競技場第一体育館でのツアー最終日の翌々日だった。インタビュー場所である通称「作業場」に現れた宮本はいつも以上に早口で「テンションが上がっちゃって眠れないんですよ」と言って、これからライブの本番でも始まるのかというぐらい本当に落ち着かない様子でテーブルを片付けてインタビューの準備を整えてくれた。長年宮本浩次を見てきてはいるが、確かにツアーやライブが終わったあとでこんなに高ぶって覚醒している姿は見たことがないし、そもそもツアーが終わって気が抜けたりぐったりするのではなくテンションが上っているというアーティストというのを僕はこれまで見たことがない。このツアーがどれほど途方もなく大きな意味を持ち、宮本自身がこのツアーに対してどれほど特別な向き合い方をしてきたのかということが、約8ヶ月間に渡って全47都道府県全50公演を終えた翌々日に全身でテキパキと身振りを加えながら息せき切ってインタビューに答えるその姿を見て一発でわかったのだった。

全国47都道府県ツアーを終えた宮本浩次にインタビューするこの日を、僕は長い間楽しみに待ち望んでいた。このツアーを終えるとき、宮本浩次のソロとしての活動の結論のようなものが明らかになると思っていた。大成功であろうと、苦しいものであろうと、無事に最終日まで走り抜くことさえできれば、それがソロ宮本浩次がたどり着いた大きな結果であり、ゴールであると思っていた。そしてさらに、5年前のエレファントカシマシ30周年アニバーサリー(そのときにもエレファントカシマシとして全国47都道府県ツアーが行われた)から続いている宮本の怒涛のノンストップの激闘と快進撃の偉大なる到達地点がここなのだと思っていた。
だが、そういうことではないということが、インタビューでテンション高く話す宮本の言葉を聞いてよくわかった。
エレファントカシマシから離れた場所で、バンドメンバー以外の人達の中で、これまで求められなかったスケールの期待や予想を超える要求の中で、自身の才能と力をもってどこまでそれらと向き合いどこまで自らを大きく成長させられるのか──その過激なまでの実験の日々がソロ宮本浩次なのだということを、僕はツアーの最終日とこのインタビューによってようやく完全に理解することができた。結果とか到達点とかそういうことではなく、迎えるべくして迎えている成長の一つの段階、そのリアルなプロセスそのもの、それがソロ宮本浩次なのだ。

最終日を終えて2日経ってもその成長はまだ一段落すらしていない。インタビューで話している途中ですら、言葉を発し考えを巡らせながら目の前でメキメキと成長しているのが感じられた。凄いアーティストだなと改めて思わざるを得なかった。テンションが高いのではなくて、ハイスピードで成長し続けていてそれが止まらないのだ。そしてその成長そのものをステージで、テレビで、YouTubeで、輝きとして解き放つ。そんなベテランアーティスト、いるだろうか?
この号が発売されている頃には、宮本はもう次の活動を始めているのだろう。それがソロなのかエレカシなのか、それともなにか新しいことなのか、僕もまだ知らされていないし予想もできないが、間違いなく宮本はもう歩き始めているはずである。成長し続けているのだ。(山崎洋一郎)

(ロッキング・オン・ジャパン8月号『激刊!山崎』より)

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