【今週の一枚】トム・ヨーク『アニマ』――数年がかりで作られたドリーム・カメラ、ついに発売!

【今週の一枚】トム・ヨーク『アニマ』――数年がかりで作られたドリーム・カメラ、ついに発売!

すでに傑作が大量出現の上半期だが、イマジネイティブという軸でとらえるなら、2019年にこれを超えるアルバムはないだろう。リリース前、ロンドン、ミラノ、東京で出された<ア二マ・テクノロジーズ>による<ドリーム・カメラ>の告知広告で巧みに物語を紡いだアルバム『アニマ』は、これまでのトム・ヨーク、ソロの流れをくみつつ、凌駕する世界観で聴き手を引き込む。

美しく、怜悧な殺傷力を持ったメロディ、サウンドは、時には絵筆のように丹念に塗り込んだり、アブストラクトであったり、素朴な初期のデジ・ロック風ビートを奏でたりと、激しい振り幅で聴き手の感性を揺さぶる。各トラック固有の姿であると同時に、それが巨大な有機体のパーツでもあることが聴き進むうちに落とし込まれてくるのが快感だ。

くだんの広告は<どうして夢は消えてしまうのか?>のキャッチに続き<これは昔からよくある話です。/私たちは毎晩のように/夢の中ではるか彼方の非現実的でおかしな世界を旅しています。/しかし、朝になるとその世界の細部を思い出すことができません。/ストーリーすら覚えていないこともあります。/しかし、これはもう過去の話です。ANIMAは『ドリーム・カメラ』を開発しました。>とある。

ドリーム・カメラ、買いたい! そしてアルバムを聴いていると、確かに存在する気がしてくるところがミソだ。まさか、と思うが、しかしン十年前に、今の携帯電話周りのことをいくら言われても想像がつかないのと同じで、新世界が出現してもなんら不思議ではない。そんなアイデアの呼び水となっているのが映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(ジョニー・グリーンウッドの音楽も素晴らしかった)の監督ポール・トーマス・アンダーソンによる映像で、イマジネイションのコラボ進化形が描き出されていく。

既出のインタビューでは、ディストピアと不安が大きなインスピレーションとなっていると答えたり、政治的な内容を持ったアルバムを作っていると発言していたが、政治的と言えば、まずレディオヘッドのイスラエル公演事件を思い出す。17年7月に予定されたそれに対し、ピンク・フロイドロジャー・ウォーターズらが反対の声を上げたが、トムは、音楽やアートは境界を超えるものであり、扉を閉ざすためのものではない、と反論し、ライブは決行された。

今作に少なくとも政治的な言及などはないが、ただ、夢というあらゆる壁や境界に煩わされることのない、自由に行き来することをキーワードにアルバムをまとめていったときに意識されたのが、今の時代を取り巻く状況であり、ストレートにポリティカルなメッセージを発していればいいというものじゃないことを踏まえたスタンスなのだろう。

曲は、古いものは数年前からライブでも披露されていて、15年のサマソニのホステス・クラブ・オールナイターでやっていた“Traffic”でアルバムは始まる。トムはサウンドはこれまでとは逆で、スタジオで即興で作ったものを壊してはライブにかけてミックスしたりということを重ね、再構築していったというが、ライブでのプレイが大きな要素として加わったことでトラックの強度が格段に高まっている。

さまざまなループやサンプリング音源をナイジェル・ゴドリッチと共にコラージュ、再構成した音に歌を付けていくが(トム本人を始めヒュー・ブラント率いるロンドン・コンテンポラリー・オーケストラなど)、オープナーの“Traffic”でまず場面設定がなされ、次の“Last I Heard (...He Was Circling the Drain)”では一瞬にしてシーンが変わり、これまたライブでもプレイされてきた3曲目“Twist”は密室性と祭儀性を帯びた前半から、後半ではまったく表情を変え叙情性を伴った歌が支配する目まぐるしい展開なのだが、戸惑うことは全くない。

たぶん知らないうちにドリーム・カメラが聴き手の中でも発動し、無数の物語を描き出しているのだろう。クラシカルでエレ・ポップ風なメロディが耳に残る“Dawn Chorus”や、リリース告知に使われた美曲“Not the News”は、このアルバムならではの造形力を持つが、それらにシームレスに繋がれた“I Am a Very Rude Person”は、タイトルからしてトムならではで、脱出口を求めターンテーブルすら破壊する姿を描き出す。さらに雄大なスケールを持つ“The Axe”、ジャズやファンク的な要素をちりばめた“Impossible Knots”、どれも無駄なく最後の“Runwayaway”まで、感情のラインが緩むことなくうねっていく。

数年がかりで練り上げたにふさわしく、無限にループしたくなる傑作だが、激しくドリーム・カメラが欲しくなるところが悩みか。 (大鷹俊一)



トム・ヨークの巻頭記事は現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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【今週の一枚】トム・ヨーク『アニマ』――数年がかりで作られたドリーム・カメラ、ついに発売! - 『rockin'on』 2019年8月号『rockin'on』 2019年8月号
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