ハリウッドの中心から車で15分ほどの場所にある広大な墓地、ハリウッド・フォーエバー・セメタリー。ロサンゼルスを訪れるロック・ファンにお勧めしたい、知る人ぞ知るスポットだ。この墓地はイベント/コンサート会場としても知られていて、2009年以来、墓に囲まれた芝生の広場「フェアバンクス・ローン」が野外会場、墓地の入口の隣に立つ歴史ある建物内の「ザ・メソニック・ラウンジ」は屋内会場に使われている。ボン・イヴェールが2009年に日の出に合わせてステージに立つ「日の出コンサート」をやって話題になった場所だ。これまでにデペッシュ・モード、シガー・ロス、ラナ・デル・レイ、ファウンテインズ・オブ・ウェイン、テーム・インパラ等、著名アーティスト/バンドが普段のショウよりも規模が小さいこの会場で公演を行ってきた。勿論、こうした特別なショウはいつも完売だ。
そして、ここにはラモーンズのジョニー・ラモーンとディー・ディー・ラモーン、そして2017年からはクリス・コーネルと、ロック・スター達が眠っている。クリスの葬儀でチェスター・ベニントンがレナード・コーエンの“Hallelujah”を歌ったのもこの場所だ。旧友クリスが隣に並ぶことになったジョニー・ラモーンの墓には、半身の銅像も立っている。また、ジョージ・ハリスンの遺体が火葬されたのもこの場所だった。
初めてこの墓地の存在を知ったのは、ジョニー・ラモーンの妻リンダが始めた「ジョニー・ラモーン・トリビュート」だった。過去13年間、毎夏開催されているイベントで、ジョニーが好きだった映画の上映会の前に、ゲストのパフォーマンスが行われる(チケットは20ドル)。
このイベントのキュレーターはジョニーの友人ヴィンセント・ギャロなのだが、ゲストもジョニーの友人達で、毎年凄いメンツが揃う。今年(8月11日)はダフ・マッケイガン、スティーヴ・ジョーンズ、ヘンリー・ロリンズ、ジョン・フルシアンテ、フレッド・アーミセンらが集い、スティーヴとフレッドのバンドや、スタークローラーらがパフォーマンスを披露。その後に上映されたのは40周年を迎えた映画『ウォリアーズ(The Warriors)』(1979年)だった。ちなみに昨年は、グリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングが参加してパフォーマンスした。
ハリウッド・フォーエバー・セメタリーは、この他に夏の間中「シネスピア」という野外映画上映を週末に開催しており、LAの夏に欠かせない映画会場にもなっている。一晩のキャパシティは3500人で、2018年の総動員数は10万人を越えた。「シネスピア」の成功を受けて、ロサンゼルス界隈で次々に野外映画上映が行われるようになったほどの人気だ。芝生の広場でピクニック形式で行われるため、フードトラックやアルコールの屋台も出るが、シートやブランケットと共にお酒や食べ物も自由に持ち込める(カリフォルニア州では公園や海など、野外での飲酒は違法)。「夜の墓場で映画を観るなんて怖すぎる」と誘っても来ない友人もいたが、美しい場所なので慣れてしまうと気にならなくなると思う。そもそも、ロック・ファンはなぜか骸骨好きが多いので、墓場も大丈夫ではないだろうか。
「シネスピア」も大人気だが、実はこの墓地で一番の集客数を誇るイベントは、1999年から毎年11月頭に開催されているイベント「ディア・デ・ロス・ムエルトス」=「死者の日」だ。昨年の動員数は1日で約3万5000人。これはメキシコのお盆のような祭りなのだが、死者を悼むのではなく、死者と一緒に思い切りパーティーをして楽しむ日なのだ。だから多くの人々が骸骨のフェイス・ペイントをして、鮮やかな伝統衣装や花で着飾り訪れる。全ての墓がカラフルに装飾され、広場では昼から深夜まで人気ラテン・ミュージシャン達のコンサートが行われ、ジョニーとディー・ディーの墓も華やかになる。お墓に対する既成概念がいい意味で覆される、実に楽しいイベントだ。
ハリウッド・フォーエバー・セメタリーは、こうした一連のイベントを行っている時以外は普通の墓地で、門が閉まる日没前なら誰でも無料で入場することが可能。ハリウッドの喧騒から離れたオアシスのような空間なので、ロック・ファンでなくても充分に楽しめると思う。訪れる際は、死者の方々と敷地内の動物達に敬意を払うのを忘れずに。
最後に、ハリウッド・フォーエバー・セメタリーのEVPジェイ・ビューロー氏より、日本の皆さんにメッセージを。(鈴木美穂)
ここは1899年に創設された長い歴史のある墓地です。そして墓地というより公園のような、他にはない珍しい墓で、本当に美しく平和な所です。実際にここを訪れて、あなたの目で確かめてみてください。そして、映画やコンサートを楽しんでみて下さいね!
Hollywood Forever Cemetery 公式サイト