【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ!

【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ! - photo by Eimear lynchphoto by Eimear lynch

今年の夏はブラック・ミディにとって飛躍の年となるであろう。6月は、初のグラストンベリー・フェスティバル出演を果たし、7月15日は3枚目のフルアルバム『Hellfire』(ラフ・トレード)が世界同時発売となる。それに先駆けて行われたのが7月13日、ロンドン・サマセットハウスにて行われたヘッドライナー・ギグだ。ブラック・ミディのライブを見て思うのは、どれくらいのリハーサルを重ねたら、このようなタイトで洗練された演奏を実現させることができるのだろうか、という疑問。結果から言うと、期待を裏切らないどころか、感嘆さえ覚えたフルセット・ライブだった。
会場となったサマセット・ハウスは、テムズ川を望むネオ・クラシックの建築で、007 『ゴールデンアイ』(1995)や『トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)など、様々なイギリス映画の撮影場所として使用されたことでも有名。今回コンサート会場となった中庭は、冬にはアイス・スケートリンクになる。
今回のライブ、サマセットハウス・サマーシリーズと銘打たれた、屋外コンサートは同施設の夏の風物詩となっており、11日間にわたり、様々なジャンルのパフォーマンスが開催される。他のメインアクトがジョン・レジェンドやアーロ・パークスなどであることからも、今ブラック・ミディがUK音楽シーンにおいて、突出した存在であることが伺える。
まだ空が明るい夜8時、会場に足を踏み入れると、3700人のキャパシティーはほぼ埋め尽くされていた。ほとんどがティーネージャーから20代の男性客だが、オーディエンス脇に、演奏前友人たちと談笑するキャメロン・ピクトン(B,Vo)を発見。若者たちはピクトンの思わぬ登場に落ち着きを隠せないが、近づきたいけど、今確保している場所を離れたくないというジレンマを抱えているのが垣間見えた。

【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ! - photo by Eimear lynchphoto by Eimear lynch

サポートアクトのキャロラインが終了し、9時きっかりに、"Sugar/Tzu"のイントロでも使用された、ボクシング・アナウンサー、ハス・ラギップの声で「From London, black "Hellfire" midi!!!」と威勢良く紹介。その後、オペラ曲、Turandotからの "Nessun dorma" をたっぷり聴かされた後、メンバー登場。ジョーディ・グリープ(G/Vo)は、ジェームス・ボンドさながらの黒のスーツにサングラスでキメている。"953"でショーはスタート。イントロのギタースタッカートで、オーディエンスから怒涛の唸り声がもれると、すぐに激しいヘッドバンギング、フロント中心部では早くもモッシュが起きている。破壊とカオスに包まれたまま、ピクトンがヴォーカルをとる、スローな"Speedway"へとシームレスに続く。実はこの緊張と緩和の繰り返しがブラック・ミディのサウンドの特徴であり、これはライブの方がより際立って感じられる。
続く新アルバムからの"Welcome to Hell"でオーディエンスは再び狂気の渦へ。ここは地獄なのか、はたまたウサギの穴なのか。それとも万華鏡を除いているだけなのか。感情表出のソニックなストーリーテリング。この曲を聴いて、ニューアルバムへの期待もグンと高まったファンも多かったと思う。

【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ! - photo by Eimear lynchphoto by Eimear lynch

"Sugar/Tzu"はアルバムよりもさらに早打ちテンポで、モーガン・シンプソン(Dr)のハイハットがずれるというハプニングも。シンプソンの強打の力加減が伺える。演奏中にも関わらずローディーが修復するのだが、この後も何度かシンバルの位置を戻したりなどの作業が見られた。恐るべしブレイク・ネック・ドラミング。ものすごい音圧だ。
"Still"、"Eat Men Eat"でピクトンがアコギを持ち、再びヴォーカルをとる。「明後日にはニューアルバムが出るよ。(後方のマーチャンダイズを指さして)あそこでコピーが買えるから」としっかり宣伝。実際、bmの演奏前には、アルバムのみならず、Tシャツや帽子を求めて、長蛇の列ができていた(ということは、今日のオーディエンスは発売前に新作を手に入れることができたということか。なんとラッキーな!)。
"Eat Men Eat"の後は、シンプソンのドラミングが止まることなく"The Race Is About to Begin"へ突入。ものすごい勢いで歌詞をまくしたてるグリープ。その迫力は息をのむ速さだ。オペラシンガーのような伸びのある声が薄暗くなりかけた夜空に響き渡る。

【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ! - photo by Eimear lynchphoto by Eimear lynch

MCは少なめだが、グリープが「シンガロング」と一言だけ放って始めたのは、ケイト・ブッシュの"Wuthering Heights"。実は彼ら、今回のライブにあたって、演奏するカバー曲の候補を何曲か挙げ(イギー・ポップからハンソン、ミニー・リパートンからスティーリー・ダンまで!)、ツイッターでファン投票を募っていたのだ。今回選ばれた、かの名曲が、ブラック・ミディの手により意外にドラマティックなサウンドを醸し出す。このような遊び心もニクい演出だ。
間髪入れずにグリープとキーボードのセス・エヴァンスがまるで会話をするかのようにスライド・ホイッスルスで応酬しそのまま“John L”へ。キング・クリムゾンの "Larks’ Tongues in Aspic"を彷彿とさせる、より前衛的プログレ色の強い金属音が鳴り響いたかと思うと、一瞬の静寂が訪れる。この動と静が共存するアンセムはライブでは実に丁寧にコントロールされている。

【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ! - photo by Patrick Krausephoto by Patrick Krause

後半は、再び選び抜かれたカバー曲を数曲披露。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの"Killing in the Name"はよりアグレッシブで挑発的、そして、チージーなギターメロディとアンビエントなドラミングでこれまでとは違った演奏の幅を見せつけた、フランク・オーシャンの“Crack Rock“では、ドラムのシンプソンもコーラスで参加。真夏のロンドンの夜空に最高のサウンドを奏でた。
美しいピアノ・イントロで、再びグリープがスライド・ホイッスルスを片手に饒舌にMC(キーボードのエヴァンスとは、バード・ウォッチングの試験中に森で出会い、彼の腕に止まったとジョーク)。遅くなる前に歌わなきゃ、と言い、マイクに向かって歌い始めたのは“The Defence“。グリープのユニークかつクリアな声が輝く月を照らすと、クルーニング声法でさらにストレッチし、まるでワープしたかのような感覚に陥る。そして最後は不協和音と変則的なリズム、吹き荒れる暴風のようなのギターが鳴り渡る"Slow"で終了。
「みんな家に帰るんだ、イエー!イエー!グッド・ナイト」と言ってサクッとステージを去ったメンバーたち。すぐにSEが流れ始めるも、「もう一曲だけ!!」と言う声が響き渡る。しかしその思いもむなしくアンコールは無し。本編のみのライブだった。
隙のない、引き締まった80分間の演奏。私自身、もっと見たい・聴きたいという物足りなさを感じていたとはいえ、バンドの無限大なるスケールと確固たる野心を脳内に焼き付けるには十分すぎる体験だったといえる。

12月には、新規入国禁止措置により延期となっていたジャパンツアーの振替公演も確定している。洗練された日本のミュージック・ファンのもとに、この英国からの曲がりくねった、突然変異していく音楽がどのように伝わるのか、今から楽しみだ。日本公演も期待を裏切らないライブを披露してくれるはずだ。(近藤麻美)

【ジャパンツアーの振替公演が12月に決定!】ブラック・ミディの濃密なライブを現地レポから体感せよ!

black midi
JAPAN TOUR [振替公演]


昨年延期になったジャパンツアー(振替公演)の新日程も決り、そしていよいよ前売チケットの再販売開始!2019年1stアルバム『Schlagenheim』リリース後に行われ、全3公演(東京・大阪・京都)を完売させた初来日ジャパンツアー以来、これが2度目の来日。進化を加速させる若きバンドの戦慄のライブパフォーマンスを今こそ体感すべし!

rockinon.com洋楽ブログの最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

フォローする