突如リリースされたクリストファー・オウエンスの新作を最速レヴュー

クリストファー・オウエンス『クリッシーベイビー・フォーエヴァー』
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クリストファー・オウエンス クリッシーベイビー・フォーエヴァー
前作『ア・ニュー・テスタメント』からわずか7カ月、早くもクリストファー・オウエンスのニュー・アルバム『クリッシーベイビー・フォーエヴァー』が到着した。一言で言えば、これはクリスのガールズ回帰作である。

思えば、クリスのソロ・ワークには常にガールズの面影が残っていた。ソロ1作目の『リサンドレ』はガールズ時代のツアーの思い出を私小説風に振り返ったアルバムだったし、バンド・サウンドを志した前作『ア・ニュー・テスタメント』は、かつてのガールズのような「仲間」を欲したアルバムだった。そう、ソロになってなお、彼は常にガールズを夢見ていたのだ。

そもそもガールズとは、何者でもなかった彼にクリストファー・オウエンスとして生きる意味を与えたものだった。だからチェットとの友情の終わりと共に手放さなければならなくなってしまったそれが、手放してなおクリスの夢で有り続けたのは当然だったのかもしれない。そしてこの『クリッシーベイビー・フォーエヴァー』は、彼がただ独りで「ガールズ」を取り戻すことができたアルバムだ。

本作では全パートをクリスが弾いている。友達数人がコーラスやプロデュースで参加しているとは言え、『ア・ニュー・テスタメント』と比べるとはっきり、きっぱりとしたソロ・アルバムだ。オープナーの“Intro”から“Another Loser Fuck Up”へ、ちょっと胸にグッとくるくらい『アルバム』時代のガールズ節がぶり返してくる。ヘロヘロの足取り、なのに浮き立つような昂揚と共にスキップしていく“Selfish Feelings”や、どん底の暗闇から頭上の陽光を見上げるような、美しくも痛切な“Waste Away”みたいなナンバーもある。喜びも哀しみも、希望も絶望も、笑いも痛みも、そのすべてを愛おしんでいくクリスの歌世界が完全に復活している。

一方には新機軸もあって、“Me Oh My”のルー・リードやフェルトのローレンス・ヘイワードを彷彿させるヴォーカルは新鮮だ。フェルトとの連想にも関連するのだけれど、本作には80Sギター・ポップ、ネオアコのリリカルな響きも加わっている。これはかつてのクリスのポップ・センスには意外になかったものだ。後半はガールズのセカンド『ファーザー、サン、ホーリー・ゴースト』で鍛錬されたスタジオ・ワークの技が活きたセクションで、ラスト・ナンバー“To Take Care of Myself Again”の多重コーラスの聖歌のごとき広がりは圧巻だし、この曲のタイトルもまた本当に象徴的だと思う。

昔、思いついたメロディやフレーズを何でもかんでもiPhoneのボイスメモに吹き込んでいたクリスに、それを聴かせてもらったことがある。『クリッシーベイビー・フォーエヴァー』は、あの時ボイスメモから流れてきた彼の声や鼻歌を思い出させてくれるアルバムだ。彼が日々を音楽と共に生きている、生かされている、証のようなアルバムなのだ。(粉川しの)
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