本当にラスト・アルバム? だとしたら美しすぎる

イギー・ポップ『ポスト・ポップ・ディプレッション』
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ALBUM
イギー・ポップ ポスト・ポップ・ディプレッション
これがラスト・アルバムだ、と報じられ、自らもインタヴューで語っているイギー・ポップの新作。未来のことは誰にもわからないが、ひとつだけ確かなことは、これで最後になっても悔いなし、と本人が覚悟し、リスナーも同意するだろう素晴らしい作品だということだ。ベルリン時代の進化形のような“ガーデニア”や“ジャーマン・デイズ”、ユニークなダンス・チューン“サンデイ”を筆頭に、どの楽曲も歌詞もサウンドも、身震いするほどソリッドで緊張感に満ち、だけどポップで聴きやすい。プロデュースを手掛けた相棒ジョシュ・ホーミはもちろん、アークティック・モンキーズのマット・ヘルダース(Dr)、ザ・デッド・ウェザーのディーン・フェルティータらバンドの功績は計り知れない。

自分は役目を終えたあと、どう生きるのか?というのが今作のテーマになっていて、老兵の倦怠と悲哀が全体に溢れている。“アメリカン・ヴァルハラ”の「死は呑み込みにくい錠剤だ」という言葉や、「人生を愛する気持ちが空っぽの浜辺そのものでも泣くんじゃない」と諭す“チョコレート・ドロップス”、「野生動物は決して理由なんか考えない やるべきことをやるだけさ」(“パラグアイ”)というゴスペル風コーラスが胸に刺さる。ポップ・スターとして最後まで時代と向き合い最先端の音を鳴らし続けたボウイが描かなかった「人生のその先」が歌われているというか。今の自分の急所を見せることで、イギーは現役アーティストとしてのひりひりするリアルな表現を生み出した。なんともイギーらしい。(井上貴子)
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