帰ってきた、音の移動遊園地

アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』
発売中
ALBUM
アヴァランチーズ ワイルドフラワー
アヴァランチーズ新作の報に喜んだのは事実だが、実際に触れるとなると不安感も大きかった。あの音楽バカのための楽園『シンス・アイ・レフト・ユー』から16年が過ぎて、彼らは今、何をやろうとしているのだろう。楽園の記憶に傷が付いたりしないだろうか。そんなふうに構えてしまっていたのだ。結論から言うと、新作『ワイルドフラワー』は完璧なアヴァランチーズである。「これを求めていたんだろう?」という確信がズバリと鳴らされていて、「自分でもびっくりするけどその通り」と答えるしかない、年月を一跨ぎにした楽園の続きが描かれてしまう。いや、続きというか、新しいリスナーはここから始めたって一向に構わない。古き良きソウルやロックのめくるめくサンプリング・ブレイクビーツに、ダニー・ブラウンやMFドゥーム、ジョナサン・ドナヒューやトロ・イ・モワ、挙げ句の果てにはジェニファー・ヘレマが新たな命を吹き込む。甘美にして涙を誘う、インディ・スピリットの結晶のような極彩色ポップ作だ。電話でトレイラーを試聴させるというアナログな発想も、思えばこのブレない作風にはぴったりだった。(小池宏和)
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