感情迸るメッセージ・アルバム

ジョニー・マー『コール・ザ・コメット』
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ALBUM
ジョニー・マー コール・ザ・コメット

分厚い雨雲にも似たダークでシリアスなムードが垂れ込めている。そしてその雲を稲光が切り裂くように、雲間から陽光が差し込むように、幾度もドラマティックな瞬間が訪れるのが、ジョニー・マーの4年ぶりのソロ3枚目となる本作だ。その出発点は2016年のブレグジットと米大統領選でのトランプの勝利だったというから、本作が前提としてダークでシリアスなアルバムとなったのには根拠がある。ちなみに制作中のスタジオでは、プロジェクターでアルジャジーラやFOXのニュース映像を延々流しながら作品の着想を得ていたというから筋金入り。欧州各地で台頭する極右や排他主義、危ういポピュリズムに流されていく状況に対する切迫感と、チリチリと燻り続ける怒りが前述の稲光の正体だ。そして、宇宙の彼方に希望を見出すアルバム・タイトルにも象徴されるように、最終的に終末観を凌駕して鳴るマーのギターのリリシズムが、陽光として本作を照らしているのだ。

警報のサイレンを思わせるシンセと、憂鬱を振り払って疾走するギターが非常時の今・此処の不安を昂揚に変えていくリード・シングルの“ザ・トレイサーズ”や、重心低めの極太ギター・ソロをギュワギュワ利かせた“ヘイ・エンジェル”、「8bit版プロディジー」とでも喩えるべき攻撃的ビートが新しい“ニュー・ドミネーションズ”など、アルバム前半はへヴィ級のナンバーが続く。しかしその一方で、歌い出しのマーのボーカルが一瞬モリッシーを彷彿させてどきっとする“ハイ・ハロー”のように、マイナー・コードと五月雨るアルペジオで象られたナンバーや、“ウォーク・イントゥー・ザ・シー”のように、マーのシグネチャーなコード運びと旋律の美しい響き、そしてストレートに伝わるメロディ・センスは健在だし、そこには迫り来る危機や混沌をはね除ける凛とした佇まいがある。そして、2016年に仏ニースで起きたトラック・テロ、90人近い犠牲者を出したあの悲惨な事件にインスパイアされたというラストのエピック・チューン“ア・ディファレント・ガン”の最後、暗いトンネルを抜け出した先で、彼は「僕らは選ばれた」と宣言するのだ。

ギタリストとしての才能を凝縮したデビュー・アルバム『ザ・メッセンジャー』、コンポーザー、マルチプレイヤーとしての成熟を見せたセカンドの『プレイランド』と、これまでの彼のソロ・アルバム2作品と比較すると、この『コール・ザ・コメット』はより総合的な表現者としての熱量、人間ジョニー・マーの迸る感情を最もダイレクトに伝える一作だと言えるかもしれない。(粉川しの)



『コール・ザ・コメット』の詳細はこちらの記事より。

ジョニー・マー『コール・ザ・コメット』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」7月号に掲載中です。
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ジョニー・マー コール・ザ・コメット - 『rockin'on』2018年7月号『rockin'on』2018年7月号
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