解像度を上げた夢の響き

ビーチ・ハウス『7』
発売中
ALBUM
ビーチ・ハウス 7

ツタタタ、というオープニングのドラムを聴いた時点で今度は何かが違うぞ、と思わされる。プロダクションに元スペースメン3のソニック・ブーム。ミックスはジーザス・アンド・メリー・チェインマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを手がけたことで浮上したアラン・モウルダー。と書くと、「あの時代」が蘇っただけじゃないかと思われるかもしれない。だが、それは明らかに21世紀のサウンドを通過したものとして鳴らされている。15年に2枚のフル・アルバムを発表し、昨年レア・トラック集をリリースしたビーチ・ハウスは、すべてを出しつくした後のまっさらな気持ちで本作に向き合えたのだろう。これまでの物憂げだが甘く陶酔的なメロディはそのままに、音の強度を増して戻ってきている。

リバーブを活かした音の響きと、柔らかいシンセの和音をゆっくりと裂くように鳴るギターの単音。それらは00年代後半の「ニューゲイズ」や10年代のアンビエントをじゅうぶんに咀嚼したものであり、その結果、これまでのやや線の細かった録音に厚みが増した。リズムがドライブする曲は広大な平原を邁進するように力強く、アンビエント・ポップ調のトラックはサイケデリアの底のない海に溺れるように甘美に鳴り響く。そのタペストリーを織りなす糸がより細やかになることによって、ふたりのドリーム・ポップは「夢」の純度を高めている。

『ラヴレス』の魅惑的な呪いと向き合うことは、21世紀のUSインディにおける重大な命題のひとつだった。『7』からは、ついにそれから解き放たれる魔法が聴こえる。「あの時代」の記憶はそこここに宿っているが、新しい時代の音とともに更新される。終曲“ラスト・ライド”の7分間は、紛れもなく2018年における恍惚である。(木津毅)



『7』の詳細はこちらより。

ビーチ・ハウス『7』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」7月号に掲載中です。
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ビーチ・ハウス 7 - 『rockin'on』2018年7月号『rockin'on』2018年7月号
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