昨年からニューヨークのブロードウェイで行われているブルース・スプリングスティーンの定期公演『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』のライブ音源集が本作。公演では15曲前後の演目についてすべて演奏前にブルースの解説が語られるのだが、この内容は彼が16年に出版した自伝『ボーン・トゥ・ラン』からの抜粋とされていて、本人自らそれを朗読する形になっているという。つまり、これはMCではなく、ある程度シナリオが書き上がっている上演作品であって、それとブルースによる楽曲のパフォーマンスが提供されるという、おそらくこれまで前例を見ない画期的なパフォーマンスである。そんなブルース自身による解説と楽曲のライブ音源を収録したのが本作なのだ。
たとえば“ボーン・イン・ザ・U.S.A.”についてのブルースの解説は長尺なもので、ベトナム戦争に従事した帰還軍人との出会いから、地元ニュージャージーの先輩ミュージシャンたちの活躍と、彼らがその後ベトナムで命を落としたこと、さらに自分や当時の仲間だったマッド・ドッグ(ヴィニ・ロペス)やリル・ヴィニー(ヴィニー・ロズリン)と徴兵検査に臨んで手を尽くしてなんとか入隊を免れた記憶へと話が膨らんでいくのだが、これがやたらと面白いのだ。こうした解説朗読とブルースの自伝での記述との照合はしていないが、これは明らかに彼の即興話術が勝っているとしか思えないものだし、もし自伝の原稿に忠実だとするのならブルースは天才的な朗読術をも誇っているとしかいいようのない内容になっている。
そして肝腎の楽曲パフォーマンスなのだが、これはブルース自身によるギターかピアノの弾き語りで、これに妻のパティ・スキャルファが折に触れてコーラスで参加するというものになっている。つまり、ブルースのソロ・ショーとなっていて、ここでの彼のパフォーマンスは実に鬼気迫る凄味に到達しているのだ。たとえば先の“ボーン・イン・ザ・U.S.A.”のパフォーマンスなどは実はこの曲の本来の姿だといわれる『ネブラスカ』的アコースティック風のバージョンをさらに発展させて、強烈なカントリー・ブルースと化した演奏を叩きつけるものになっており、その中でベトナム帰還兵の現実を歌い上げてみせている。基本的に楽曲のパフォーマンスはすべて同様に、テンションの高いソロ・パフォーマンスとなっていて、ブルースの作曲の核心にどこまでも迫っていくものだ。それに加えて作者インタビューまでその場で聴けるというすごいライブなのだ。(高見展)
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