突然訪れたNICO Touches the Wallsの活動終了に寄せて

身を焦がしながら音楽に向かっていくこのバンドの炎に魅せられ、それを美しいと思ってしまっていた身なのだから、今は私の感情を焼べて、ここに文章として綴ろうと思う。

11月15日の正午、NICO Touches the Wallsが活動終了を発表した。驚いた。というか飲み込むことができなかった。3日経った今ですら心が事実を受け入れてくれない。

突然の報せではあったが、何となく予兆はあった。8月31日の「SPACE SHOWER TV 30TH ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019」出演を最後にバンドのスケジュールは白紙状態だったし、毎年イベントが開催される11月25日(イイニコの日)に関する告知も今年はなかなか出てこなかった。とはいえ、元々SNSなどを通じて近況を頻繁に発信するタイプのバンドでもなかったし、音沙汰なく地下に潜る分、地上に帰ってきたとき、私たちの想像の遥か彼方へテレポートさせるようなライブを見せてくれるバンドでもあったから、この状況もまあ、在り得ないことではないだろうと思ってはいた。

振り返ればニコは、悩んで、足掻いて、何かひとつ手に入れて――というサイクルの真っ只中に常にいるようなバンドだった。音楽に対してどこまでも貪欲で、多方向にアンテナを張っているからこそ生まれてくる好奇心と渇望感。それらを土台にした多彩なアウトプット。外から見ると実像が分かりづらいバンドで、だからこそやきもきすることも正直あったが、音楽の神様を追い求めるその過程はあまりに人間臭く、このバンドの健全な不器用さを私は愛していた。

結成から15年。キャリアの積み重ねにより、バンドの演奏技術・表現力も向上し、戦いの日々がひとつずつ実を結び始めていたところだったように思う。2015年を境に、アコースティック編成での音源制作・ライブ活動も展開。2017年以降のライブでは、共同プロデューサーとして彼らの音源に携わっていた浅野尚志(バイオリン、キーボードなど従来の編成にない楽器も担当)がサポートメンバーとしてしばしば参加。その他にも、「メンバー全員がコーラスをやるようになる」、「メンバーが自身の担当楽器以外を演奏する」など、新たな武器も実装しながらニコはその表現の振れ幅をさらに拡大させていった。その際、人力での演奏に強いこだわりを見せていたことも特徴的で、特に2018年の幕張メッセワンマンでの「ミステリーゾーン」が印象に残っている。数十曲を一繋ぎにする人力マッシュアップを披露するバンドの演奏、および光村龍哉(Vo・G)の「そんじょそこらのバンドにはできないことだと思います」という発言からは、「ロックバンドはこんなこともできるんだぞ」という誇りと矜持を読み取ることができた。今年6月にリリースされ、結果的にバンド最後のリリースとなったアルバム『QUIZMASTER』は、ロックバンドの可能性を追求し続けた彼らの集大成と呼べる作品だ。今からでもいい。未聴の人はぜひチェックしてみてほしい。

最後のワンマンライブ(もちろん観客側はこれが最後だなんて思ってもいなかったが)は、6月8・9日にTOKYO DOME CITY HALL、Zepp Osaka Baysideで行われた全国ツアー追加公演だった。私が観た東京公演では、光村「アルバム(『QUIZMASTER』)は聴いてくれましたか? いかがでしたか?」→観客(長い拍手)→光村「泣きそうになる。頑張って作って良かった」→観客(さらに拍手)という場面があった。そのときの会場の温かな空気が忘れられない。ニコがあれこれ悩みながらどうにか生きていくタイプのバンドだということは、きっとみんな分かっていた。そしてその「みんな分かっている」ということに、メンバーもさすがに気づいていたんじゃないかと思う。

だからこそ、バンドが今終わってしまうのが悲しかった。ここ1、2年のライブで光村はよく「音楽の上では何やったって自由だ!」と言っていた。私たちはその言葉や、ステージ上で音楽を謳歌するメンバーの姿、どんどん自由で大胆になっていく演奏を見て、NICO Touches the Wallsというバンドに、このバンドで鳴らす音楽に無限の可能性を感じていた。一方同じ頃、彼らには、バンドの外側に広がる景色が見えていたのかもしれない。このバンドでできることはやりきった、という手応えを掴み取っていたのかもしれない。その違いが、ただただ切ない。

しかし、ステージ上の彼らが、そして客席にいる私たちが最後まで笑顔だったこと、そこに嘘はなかったはずだ。また、4人も私たちも、未来を見ていたことには変わりなかったように思う。あのワンマンで最後に鳴らされたのは、4thアルバム『HUMANIA』収録曲“demon (is there?)”だった。

《夢抱いて 不安を抱いて 最期を迎えるまで/ただ 歩く今日を 向かう明日を 愛したくて 僕らは生きるだろう》

メンバー4人の人生は続くし、私たち一人ひとりの人生も続いていく。そんななか、互いの未来が交わる日はいつかきっとやってくるだろう。今はその時を信じて彼らの新たな動きを待っていたい。(蜂須賀ちなみ)
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