アイロニーと福音が共鳴する場所

江沼郁弥『偽善からはじめよう』
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江沼郁弥 偽善からはじめよう
江沼郁弥のソロキャリアの幕開けを飾る配信シングル3ヶ月連続リリースの2作目『偽善からはじめよう』。《だれもかれもが狂ってる/どこもかしこも人間アレルギー/なのになぜ そんなに繋がってる/愛想笑い から笑い》という一見偽悪的なフレーズによってしかし、江沼は今この混迷の時代に潜む(そして僕ら誰もが手を伸ばせるはずの)「本当に大切なもの」の在り処を懸命に探し出そうとしている。ネガティブにネガティブを塗り重ねることによって、それでも揺らぐことのないなけなしのポジティビティを描き出す――plentyから脈々と続く江沼の表現者としてのアイデンティティが、バンドというサウンドの枠組みから外れたことでかえって無限のポテンシャルを発揮し始めていることが、ハイブリッドピアノバラードとでも呼ぶべき音世界と透徹した歌声の随所から伝わってくる。《偽善からはじめるなら/躊躇わなくていいんだ》というフレーズは、善意と偽善の境界線すら曖昧になったこの世界へのアイロニーであり、決死の福音でもある。鋭利に研ぎ澄まされた江沼の「今」を浮き彫りにする名曲。(高橋智樹)
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