シグネチャー・ボイスとでもいえばいいのだろうか。一聴しただけで誰だかわかる歌声の持ち主をフロントに据えたバンドはやはり強い。なにしろ本道をよほど大きく踏み外さないかぎり、大概の曲は“らしい”ものにしか聴こえないのだから。
デヴィッド・カヴァーデイル率いる老舗バンドによる、現体制での初アルバム。ここのところディープ・パープル時代のレパートリーの再構築アルバムやリイシュー作品が続いていたため、オリジナル・アルバム発表は約8年ぶりとなる。
人事異動がもたらした差異としてもっとも顕著なのは、ソングライティングの部分だろう。前2作でカヴァーデイルのパートナーを務めていたダグ・アルドリッチ(G)は、往年のホワイトスネイク然とした楽曲を再生産することに尽力し、いわば「ベスト・アルバムに入っていてもおかしくないような新曲」を提供すること、ギター・ヒーロー然とした佇まいでバンドのもう一人の花形として輝くことで貢献していた。それに対し今作には、普遍的でありつつも「あ、こういう曲もアリなの?」と言いたくなるものが目につき、たとえばAC/DCにZZトップ風味を足したような曲、かなり露骨にシン・リジィ的な楽曲、デフ・レパードを思わせるコーラス要素なども含まれている。
もちろん曲作りの軸となっているのはカヴァーデイル自身だが、前2作ではやや陰に隠れていたレブ・ビーチ(元ウィンガー)、脱退したアルドリッチの後任に迎えられたジョエル・ホークストラ(元ナイト・レンジャー)が、より広い意味で普遍的なハード・ロック要素を持ち込んでいるのは明らかであり、その2作と同様にあくまで80年代的な色味の濃い、奇を衒ったところのない作風でありながら、むしろ新鮮なものに感じられることが興味深い。
肝心のカヴァーデイルの歌唱についても、60代後半とは思えぬ若々しさと艶っぽさ。元々、圧倒的な声量や声域というよりは、音源上での微妙な声の使い分けやコントロールのあり方に、あざといほどの巧みさを感じさせる人だったが、そうした技巧にはさらに磨きがかかっている。他のバンドに任せておけばよさそうなタイプの楽曲をやることで逆に“らしさ”が強調されることになったのは少々皮肉ではあるし、前任ギタリストが報われない気もするが、充実度の高い作品であることは間違いない。ただ、だからこそ、往年の名盤の復刻かベスト・アルバムのようにしか見えないアートワークには、もう少しばかり工夫が欲しかったように思う。 (増田勇一)
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