前作『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』が2008年の作品だったから、ザ・ラカンターズとしてはなんと11年ぶりの新作ということになる。ただしその間にはジャック・ホワイトのソロが3作、ザ・デッド・ウェザーとしても3作、また、相棒のブレンダン・ベンソンもソロを3作リリースしているので、いわゆる長期ブランクからの復帰第一作的なものとは全く違って、それぞれにクリエイターとして脂が乗り切った状態でレコーディングに突入した、その勢いと充実が漲る傑作となっている。
ジャックのもうひとつのプロジェクトであるデッド・ウェザーが、アリソン・モシャートの個性を反映してミニマルで先鋭的、クラシック・ロックの解体を推し進めたアート・フォームであるのに対し、ラカンターズは極上のメロディ・メイカーであるブレンダンとの相乗効果によって、クラシック・ロックと60Sガレージ・パンクや90Sオルタナティブ他様々な要素と融合させていく、バンドらしいバンドだったわけだが、本作はそんなラカンターズらしさがより凝縮された内容になっていると言っていいだろう。地を這うヘヴィ・ベースと火花散らしながらドリフトするギター・リフが絡まりもんどり打ち、初っ端からツェッペリンばりのハード・ブルーズで脳天を突く“ボード・アンド・レイズド”、レイドバックしたカントリーが違和感なくプログレへと展開していく“オンリー・チャイルド”も凄い。凄いと言えば中盤のハイライトは間違いなく“ドント・バザー・ミー”だ。オペラティックなコーラスが煽り立てるハード・ロックで、ギター・ソロもドラム・ソロも過剰搭載。このご時世、オールドスクールなロックの音圧と密度にここまで圧倒されることは滅多にないが、同時にギチギチの重厚感の中にもダイナミクスを見出す、モダンな空間設計が行われているのが本作の新しさ。シンプル極まって最早ハイファイな鳴りを獲得しているアコギの開放弦や、カオスの遥か高みで凛として響くピアノは驚くほどフェミニンで軽やかだし、ジャックとブレンダンのツイン・ボーカルも未だかつてなく伸びやかで、まだまだ余白があることを想起させるのだ。
最新ツアーではお客のスマホを没収し、ライブ撮影を不可としたことも話題となったが、このアルバムを聴くと、ラカンターズがスマホのカメラに象徴される体験の切り取りやコラージュの行為を嫌う理由がよくわかる。彼らが目指すのはロックというジャンルの再構築ではなく、リスナー一人一人の内側に眠るロックの興奮の記憶に、再び火をつけていくという直接性なのだから。 (粉川しの)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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