醜い地球人ども、巨大なカタルシスを歌え

ザ・チェインスモーカーズ『ワールド・ウォー・ジョイ』
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ALBUM
ザ・チェインスモーカーズ ワールド・ウォー・ジョイ

2019年夏のサマソニにおける大トリ出演は、このニューアルバム『ワールド・ウォー・ジョイ』を携えた新作ツアーの試運転ライブ的な意味合いがあって、それをしっかりとスタジアム規模で体感できたのはとても良かった。人々を無差別に巻き込むチェンスモのメロディの威力と、またすでにダンスDJアクトとしてのパフォーマンスから離れている彼らの現在地を確認することが出来たからだ。

前作『シック・ボーイ』からギリ1年弱というショート・スパンで届けられた『ワールド・ウォー・ジョイ』だが、リリース直後のチャート・アクションは前作同様にあまり振るわない(ビルボードのダンス/エレクトロニック・アルバム・チャートでは見事初登場1位を飾っている)。それもそのはずで、彼らはこの2年間、毎月のように新曲配信とMV公開を続けており、アルバム直前に届けられたリリック・ビデオなどを含めると、『ワールド・ウォー・ジョイ』には初出となる楽曲がただの1つも含まれていないのだ。現代リスナーの消費傾向を考えれば、「好きな作品なら買う」(僕だってそうだ)という層に向けて作品を発信するのは至極真っ当な判断だし、ちょっとドライかつシステマティックな表現姿勢に感じられるかも知れないけれど、その継続的な創作意欲は驚異だ。ご丁寧にも、外部ソングライターとの和気藹々とした、しかし真面目な作曲風景を伝えるビデオまで公開されているのである。

そういう制作経緯なので、『ワールド・ウォー・ジョイ』というアルバムは『シック・ボーイ』にも増してプレイリスト的性格が強く、旧来的なアルバムとしての一貫したテーマや構成は見当たらない。人間同士の齟齬や摩擦や諍いを、主にラブ・ソングという体裁で綴ったエモーショナルな楽曲が並んでいるだけだ。自己中心的で、その上感傷に染まりやすく、歌の中では悲劇の主人公である僕ちゃん私ちゃんたちがズブズブと自己愛の甘いメロディに身を委ねている。徹底して露悪趣味なチェンスモ節に貫かれているという点では、ある意味アルバム的なのかも知れない。『シック・ボーイ』という露骨な「自分vs世界」のパラノイアックな修羅場を潜り抜けてきたからなのか、そういった炎上商法寸前(いやアウトか)の狙いすました中毒性は以前にも増して強烈であり、痴話喧嘩でしかない歌詞を美しいデュエットで交錯させてしまう“シー・ザ・ウェイ feat. サブリナ・クラウディオ”(新人起用も抜かりない)や、タイトルそのままに酒の力で調子に乗っている“プッシュ・マイ・ラック”あたりはヤバい。重要なのは、こんなふうに物議を醸す歌を歌いまくっているのが、なぜロック・バンドではなくチェンスモなのか、という点だ。ドラマーのマットがライブで重要な役割を担うようになってから、僕はチェンスモのロック・バンド化が進むと思っていたけれど、それはサウンド面の話だけではなく、そもそも彼らの「お騒がせ」な活動姿勢に込められた覚悟そのものが、極めてロック・バンド的だったのである。

巧みな押韻とグッド・メロディを活かしたソングライティングのマナーは、そもそもダンスDJというよりビッグ・ルームEDMの巨大なシンガロングの一体感に感化されてきたチェンスモらしい長所と言えるだろう。そこに、生ドラムを効果的にサンプリング利用したトラックの躍動感が注ぎ込まれることで、歌モノとしての体温を伴ったダイナミズムが向上している。シングルとして最初にリリースされた“フー・ドゥー・ユー・ラヴ feat. ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー”や“テイクアウェイ with イレニアム feat. レノン・ステラ”が、ここ数ヶ月の間にTikTok動画などでも頻繁に利用され、瞬間的に映える現代型楽曲デザインの力が実証されたと言っていいだろう。なお“テイクアウェイ”は、イレニアムの素晴らしいアルバムにも先に収録されていた楽曲だ。そして、“コール・ユー・マイン feat. ビービー・レクサ”のハスキー・ボイスや“ドゥー・ユー・ミーン feat. タイ・ダラー・サイン&ビューロウ”におけるドリューを含めた3者の滑らかなボーカル・リレーも、見事なパフォーマンスとなっている。目立って真新しい音楽的トライアルがあるわけではないけれども、あらゆる角度からポップを狙うアイデアが仕掛けられているという点で、チェンスモの最高傑作アルバムになっていると思う。未練タラタラの情けない男の歌でブリンク・182と共演しているのには、思わず笑ってしまった。人間同士の身近でリアルな諍い、という視点から渾身のエンターテインメントを紡ぎ上げ、血と涙に濡れたまま地獄の底でピースサインをしてみせる、修羅の如きポップ・ソング集だ。 (小池宏和)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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ザ・チェインスモーカーズ ワールド・ウォー・ジョイ - 『rockin'on』2020年2月号『rockin'on』2020年2月号
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