アーティスト

    水中から未来へ進むための歌

    ラプスリー『スルー・ウォーター』
    発売中
    ALBUM
    ラプスリー スルー・ウォーター

    冒頭の“スルー・ウォーター”から、音響効果の高さに驚かされる。その、深いリバーブによるくぐもったサウンドは、タイトルやアートワークの通りの「水中」を思わせる。登場時、10代ということもありずば抜けた歌唱力と憂いを孕んだ声で注目を集めたラプスリーだが、約4年ぶりとなる本セカンド・アルバムで全曲作詞作曲に加えプロデュースを務めており、サウンド・クリエイターとしての才を大いに発揮している。アンビエント要素のあるメロウなエレクトロニックR&Bという点では近年のトレンドから地続きだが、タッチが細部まで磨かれており、彼女自身の歌の質感と音色がしっかりと寄り添うよう仕上げられたクオリティの高さには舌を巻かずにいられない。

    タイトル・トラックだけでなくシングル“マイ・ラヴ・ワズ・ライク・ザ・レイン”の「雨」など随所で「水中」のイメージが挿しこまれるが、おそらくこの4年間における彼女自身の内省を表しており、それが深い余韻を残すサウンドで鳴らされることで、陶酔的な風合いを醸している。ひとりの女性として、アーティストとしての成長がここには刻まれているとラプスリーは自負しており、そこに至るまでの内的探求があったことがこのアルバムからは染みてくる。

    メランコリックな瞬間を通過し、後半ではじょじょに明るいトーンが増していく。クラブ・ヒットもしそうな“Womxn”はそのハイライトだろう。悪い状況にいたときに未来を信じて書かれた曲だそうだが、MVで女性サイクリストたちの勇ましい姿が映されていることからもわかるように、彼女だけでないすべての女性の未来を信じる歌へと昇華されている。個人的なものを一瞬でポップへと変換してしまう、ラプスリーの資質が見事に証明された1枚。 (木津毅)



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    ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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    ラプスリー スルー・ウォーター - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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