進化する新時代のローファイ

カー・シート・ヘッドレスト『メイキング・ア・ドア・レス・オープン』
発売中
ALBUM
カー・シート・ヘッドレスト メイキング・ア・ドア・レス・オープン

もともとウィル・トレドひとりの超DIYプロジェクトとして始まったカー・シート・ヘッドレスト。マタドールとサインしたこともあり、近年はローファイ・バンドとしてのアイデンティティを固め、ソングライティングとプロダクションを磨いてきたわけだが、たとえば18 年の『ツイン・ファンタジー』が初期作の再構築&再レコーディング作だったことからもわかるように、音楽家としての着実な成長を自らに明確に課してきたようなところがある。

本作は純粋な「新作」としては16年の『ティーンズ・オブ・ディナイアル』以来のアルバムで、ここ5年ほどで制作してきた楽曲が収められている。レコーディング方法が少し変わっていて、一度バンド・スタイルで録音したものと、二度目のシンセのみで録音したものの要素をミックスしていったそうだ。後者のエレクトロニックな要素はトレドがメンバーのアンドリュー・カッツと取り組んでいるワン・トレイト・デンジャーというエレクトロニック・ミュージック・プロジェクトでの経験が活かされているようで、なるほど、これまでのローファイ・ロックのスタイルとエレクトロニカ的な要素が混ざり合っている。このハイブリッドなローファイとでも言えるような感覚は、明らかに新機軸だろう。トレドのプロダクションに対する意識の更新が成果になっている。

ただ、CSHの一貫した魅力である、ささくれ立ったフィーリングは「成長」とともに尽きることはない。それこそペイヴメント辺りを彷彿させるひねくれた脱力感や、ニュートラル・ミルク・ホテルを思い出すような切ない温かさは、ソングライティングの面でさらに輝いているのではないか。頼りなさが輝く瞬間を捕まえる、インディ・ロックの魔法である。(木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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カー・シート・ヘッドレスト メイキング・ア・ドア・レス・オープン - 『rockin'on』2020年6月号『rockin'on』2020年6月号
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