文芸嗜好×明快なロック

ザ・ユーズド『ハートワーク』
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ALBUM
ザ・ユーズド ハートワーク

グッド・シャーロットブリンク182などを手がけたジョン・フェルドマンをプロデューサーにすえ、彼の運営するレーベル、ビッグ・ノイズから初めてザ・ユーズドが発表するアルバム。8作目となるその『ハートワーク』冒頭の曲は“Paradise Lost, A Poem By John Milton”と題されている。人類最初の男女が神の怒りに触れ楽園から追放されたという聖書の物語を題材にしたミルトンの叙事詩『失楽園』をモチーフにした詞である。世界の人々がウイルスに脅かされる現在とシンクロするような内容だが、バンドは今の状況を予想して新作を制作したわけではない。

ボーカルのバート・マクラッケンは、ドラッグやアルコールの依存症で苦しんだ過去があり、そのリハビリの時期に読書家となったという。今回の新作ではミルトンだけでなく、多くの文芸作品から着想を得ている。“1984(インフィニット・ジェスト)”はジョージ・オーウェルのディストピア小説『一九八四年』だろうし、“The Lottery~”はシャーリイ・ジャクソンに同名短編(『くじ』)があり、“Gravity's Rainbow”はV2ロケットをモチーフにしたトマス・ピンチョンの長編『重力の虹』に由来する。

ただ、詞は様々な思索から書かれたのだろうが、それによって曲が面倒くさいものになっているわけではない。ブリンク182のマーク・ホッパスやトラヴィス・バーカーなどをゲストに迎え、いつも通りラウドなギターでシャウトしている。また、曲によっては、エレクトロニックなサウンドやストリングスなどで変化をみせる。キャッチーなメロディが多く、聴くうえでは明快な印象のアルバムだ。混乱した世界を見つめながらも、ポジティブで前向きな音を鳴らしている。(遠藤利明)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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ザ・ユーズド ハートワーク - 『rockin'on』2020年6月号『rockin'on』2020年6月号
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