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ティム・バージェス『アイ・ラヴ・ザ・ニュー・スカイ』
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ALBUM

シャーラタンズティム・バージェスの2年ぶりソロ第5作。とはいえ近作ソロはすべて曲作りも含め他アーティストとのコラボ作品だった。だが本作はティムひとりでアコースティック・ギターで曲を書き、ごく少人数によってコツコツとベーシック・トラックをレコーディングしたという、文字通りのソロ・アルバムとなっている。その後さまざまなミュージシャンが音を重ね、アルバムは完成したが、制作期間は約1年にも及んだ。

そして興味深いのは、そんな作り方にも拘わらず、これまでのどの作品よりもポジティブなエネルギーと、カラフルで華やかなポップネスを感じさせる作品に仕上がっていることだ。静かな曲や内省的なエモーションを感じさせる曲もあるが、多くの曲は彼らしいサイケデリックなフレイバーを振りまきながら、密室的というよりも開放的なパワーが漲り、サウンド面でもシンプルながらさまざまな工夫やアイデアが凝らされて、これまでのどの作品よりも力強く高揚する。曲もよく書けているし、ボーカルもいい。彼の最高傑作と言えるだろう。

新型コロナ渦が世界中を覆うさなかでのリリースだが、もちろんここに収められた曲はそれ以前に書かれたものだろう。だがコロナ以前と以後では世界のあり方がすっかり変わってしまうであろうことは、おそらく多くの人たちが予感しているはずだ。音楽も、音楽の作り方も、これまでとは大きく変わる。ライブはおろか、バンド・メンバーが一堂に会してのレコーディング・スタジオでの作業も困難な今、この傑作をコツコツと作り上げたティムのやり方は、音楽の新たな可能性を広げるひとつのサンプルではないかという気がする。その意味でとても予言的で、そして今の気分にフィットした音楽だ。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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『rockin'on』2020年6月号