様々な種類の楽器ならではの音色があるのと同様、人間の声の色合いにも、たくさんの形があるが、
藤原さくらはなかなか稀有な声をしている。「スモーキー」とでも表現するのが最もしっくりくるこの声は、感情を抑制したトーンのようでありながらも、さり気なくエモーションを溢れ返らせることができるのが独特だ。だからこそ、「落ち着いた雰囲気だけどアッパー」というような矛盾した合わせ技も、ごく自然に成立させてしまえるのだろう。そういう持ち味を、新曲“Monster”を聴いて、改めて実感した。
冨田ラボがアレンジを手掛けたサウンドが醸し出しているムードはスタイリッシュだが、彼女の歌声と融合することによって、ビートのダンサブルさがかなり強調されているのは、どういうわけなのか?「適度に身体を揺らせるダンスチューン」というような印象に着地しそうな曲なのに、手にしたタオルをブンブンと振り回して盛り上がるリスナーがいてもおかしくない野性味を帯びているのが、繰り返し聴くたびに不思議だ。この歌声は、今後も彼女の音楽に豊かな風味を授け続けていくことになるのだと思う。(田中大)
『ROCKIN'ON JAPAN』2020年9月号より