本作は昨年リリースされたベックの傑作『ハイパースペース』のアナザー・バージョンというか派生プロジェクトのようなもの。NASAジェット推進研究所(JPL)とのコラボによるビジュアル・アルバムで、特設サイトを訪問すると、NASAのミッション画像を使用したベックのMVでもって、太陽系宇宙を旅行する疑似体験ができるという仕組みだ。MVの映像は、NASAが保有するアーカイブを学習する人工知能(AI)で制作したらしい。画面をスクロールすることで広大な宇宙をスクリーン上で探索でき、各惑星に紐付けられたMVを観たり、ハイパーリンクでNASAのサイトに飛んで、宇宙に関するさまざまな情報を得ることもできる。宇宙をモチーフにした新作グッズも購入可能。MVだけをYouTubeで連続視聴することも可能だ。また、ベックの音楽自体にも少し手が加えられているようだ。ビジュアル抜きの音のみのアルバムは『Hyperspace (2020)』として各配信サイトで聴くことができ、そこでは未発表曲2曲とセイント・ヴィンセントによるリミックス音源も追加されている。
映像はサイケデリックで幻想的で、とにかく美しい。パソコンの小さな画面では物足りず、大画面テレビで観たくなる。なぜベックがこんなプロジェクトを手がけたのか、現時点では彼のコメントがないので不明だが、NASAとコラボして宇宙をテーマにビジュアル込みで制作された音楽作品、というならジェフ・ミルズの『Planets』(2017)という先駆もあり、ベックが初めてというわけではない。だが『ハイパースペース』という作品がこんな形で発展し、別の果実をつけることになるとは想像もしていなかった。ベックの遊び心と実験精神は未だ旺盛のようだ。 (小野島大)
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