新型コロナ禍の収束が見えないこの状況下、すべてのファンが平等に楽しむことのできるライブ・アルバムというものの素晴らしい価値について改めて考えさせられることも少なくない。本作もまさにそうした作品のひとつだ。2020年をもってデビュー40周年、トリプル・ギターを擁する6人編成になってから21周年を迎えている彼らは、2018年に『レガシー・オブ・ザ・ビースト』と銘打ちながら過去最大級の規模でのワールド・ツアーを開始。本作は2019年9月に行なわれたメキシコシティでの三夜公演の際に収録された音源により構成されている2枚組で、このツアーの趣旨通り、歴史を彩ってきた代表曲の数々に加え、久しくセットリストから外れていた楽曲などもふんだんに盛り込まれた演奏内容となっている。
そのライブ・パフォーマンスの高次元での安定ぶりについては言うまでもなく、ブルース・ディッキンソンの声の艶、レイドバックとは無縁な前傾姿勢の演奏ぶりには、平均年齢が還暦を過ぎているバンドとはとても思えないような若々しさがある。そうした熱い演奏ぶりにさらに油を注いでいるのがメキシコの聴衆で、途切れない大合唱も込みで楽曲が成立しているように感じられる部分すらある。
そして、そんな素晴らしい音源に浸りながら妄想を働かせていると「ああ、コロナはこのライブを日本で観られる機会を消し去ってしまったのか」という悔しさがこみあげてくる。去る5月に行なわれるはずだった来日公演は残念ながら中止となった。が、このツアー自体は2021年も続くものとされている。まさしく今回のツアー中断期の穴を埋めるかのように登場した本作が、次なるポジティブな展開へのイントロダクションとなることを願いたい。(増田勇一)
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