それだけ反響が大きかったのは、本作のタイム・スパン=1972年から1976年が、『ATGR』&『ハーヴェスト』の二大ヒットを経て彼のクリエイティビティが更に加速・拡大しひとつのピークに達していた、いわゆる脂ののったダイナミックな季節だからに他ならない。アルバムで言っても『時は消え去りて』、『渚にて』、『今宵その夜』、『ZUMA』等にかけての多作な頃に当たるのだが、かつて本人がCD化を渋っていた作品や昨年までお蔵入りになっていた『ホームグロウン』(74〜75年録音)も含むこの時期にはまた、「いわくつき」とでも言うべき謎めいたイメージもついて回ってきた。
しかしソロ、クレイジー・ホース、ストレイ・ゲイターズ、サンタモニカ・フライヤーズを始めとする様々な編成に挑戦し、かつ豪華な共演者の数々(CSN、ジョニ・ミッチェル、エミルー・ハリス他)と繰り広げたセッションやライブ音源の数々はその多彩さを反映しロック、フォーク、ブルース、ポップ、カントリー、ラウンジ調等々貪欲なまでに幅広い音楽性を誇り、活気に満ちている。それだけ当時の彼もライター/パフォーマー双方の面で霊感がみなぎっていた、ということだ。
筆者はコアに博識なニール研究者ではなく、標準的なファンに過ぎない。そんな耳にすら本作を聴いていると公式スタジオ・アルバムからだけでは理解しにくい文脈や行間が浮かび上がってくるし、彼の音世界が新たな色彩を伴いより立体的に迫ってくる様に興奮せずにいられない。大ボリューム作なので敷居は高い。おいそれとは手を出せない価格でもある。
だが、ロックを聴いていればいつか必ずニール・ヤングに出会うし、その歌に涙する日もやって来る。その日を信じて、未来の自分への投資として奮発する価値のある作品ではないかと思う。(坂本麻里子)
『ロッキング・オン』最新号のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。