4年8ヶ月ぶりの通算12作目。J・マスキスとカート・ヴァイルの共同プロデュースだが、ダイナソーJr.のアルバムで外部プロデューサーが参加するのは、『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』以来、34年ぶり。カートはギターも弾いており、メンバー以外のゲストが参加しているのも『ウィズアウト・ア・サウンド』以来27年ぶりである。
つまりは、常に自給自足のDIYでやっていた彼らが、久しぶりに外部の血を入れて制作したアルバムなのだ。Jは常々カートを絶賛していたし、共演経験もある。その意味でカートという人選自体はそれほど意外ではない。Jによればカートに声をかけたのは「最近シン・リジィをよく聴いていたのでツイン・リード・ギターのサウンドが欲しくなったから」という。たとえば“I Ran Away”ではカートが12弦ギターを弾いたりして、微妙にトーンやニュアンスの異なる2本のギターがアンサンブルを奏でてはいる。
全体にポップでメロウなサウンドが聴けるが、しかしそれもダイナソーという強すぎる個性の前には些細なことと思えてしまう。確かにシン・リジィにインスパイアされたと覚しい曲もあるが、ダイナソーはどこまで行ってもダイナソーで、JはJでしかないことを痛感する。カートという新しい血は、Jの創作へのモチベーションを上げるために必要だったのだろう。そんな中で見逃せないのがルー・バーロウの個性だ。すべてがJ色に染まってしまいがちな彼らのアルバムで彼の曲が良いアクセントとなっている。
コロナ禍で発売延期となった作品だが、どの時期のリリースだろうが彼らの音楽の価値は変わらない。いつだってJは、ダイナソーは、最高に美しくてエモーショナルで空虚だ。(小野島大)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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