昨年フランスで彼らと対バンしたおとぼけビ〜バ〜のよよよしえさんが、実際にライブを観て「とてもよかった」と言ってたので、個人的に注目していた。そうでなくても、ゴート・ガールやフォンテインズD.C.を手がけたダン・キャリーのレーベル=スピーディー・ワンダーグラウンド界隈の注目株であり、ブラック・ミディとブラック・カントリー・ニュー・ロードに続く第三の刺客!みたいな位置づけ、さらにワープとの契約を得てのデビュー・アルバムと、すでに話題性は十分すぎるほどある。
クラウトロックのハンマー・ビート風にブッ叩きながら歌うオリー・ジャッジのボーカルが、どこかジェームス・マーフィーっぽいこともあり、LCDサウンドシステムを連想する人もいるだろう。実際、前述の若手精鋭バンドの中では最もダンス・ミュージック色が濃い。じゃあ、チャラいタイプなのかと言えば、決してそうではない。
昨年までに発表したシングルは一切含まず、全曲新規のトラックで占められた本作は、ノリのいいグルーヴに混ぜ込んで、なんだか落ち着かないサックス(BCNRのルイスが参加)、耳障りなチェロ、不気味にうねる分厚いシンセ、そして先行シングル“ナレーター”でフィーチャーされたマーサ・スカイ・マーフィーによる狂ったような絶叫など、異様な音が次々に飛び出す。そして終盤、ダークな“グローバル・グルーブ”を経て、ラストの“パンフレッツ”でクライマックスを迎えるのだが、キリキリした感触が最後に到達するのは、エクスタシーというより死とか虚無なのではないかという気持ちさえする。
キャリーとともにロックダウン下で録音された本作は、ディストピアの光景が広がっていくようなフィーリングを持ってしまったらしい。ともかく、チェックして損は無いはずだと言っておこう。(鈴木喜之)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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