セラピーとしての自己表現

ブロックハンプトン『ロードランナー:ニュー・ライト、ニュー・マシーン』
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ALBUM
ブロックハンプトン ロードランナー:ニュー・ライト、ニュー・マシーン

2019年に初来日を飾ったUS発のボーイ・バンド、ブロックハンプトンのステージは今でも忘れられない。お揃いのジャンプ・スーツに、多様性を体現したメンバー構成と、90年代のビースティ・ボーイズを思わせる痛快なパフォーマンス。総勢13名に及ぶ自作自演のコレクティブとしても知られる彼らが、ロックダウン中のラフな習作~新曲群を挟み、6枚目のアルバムを完成させた。

SNSに投稿された予告動画には、あのリック・ルービンが冒頭3曲を絶賛する姿が収められ、「まさかリックがプロデュース!?」と噂を呼ぶも、制作には不参加。

しかし、ダニー・ブラウンが牙を剥く変速チューン“Buzzcut”を筆頭に、ジェイペグマフィア、エイサップ・ロッキー&ファーグ、ショーン・メンデス、さらにはR&Bの大御所チャーリー・ウィルソンまで客演したマイク・リレーは目が眩むほど豪華だし、随所でウータン・クランの“C.R.E.A.M.”を引用するセンスも頼もしい(CDのみボートラ4曲収録)。また、前作『Ginger』の親密なメロウネスに比べると、BHのラップも血管がブチ切れそうなほど熱量に満ちている。

それもそのはず、“The Light”と名付けた2曲で克明に綴られているのは、自殺を図ったジョバの父親についてだ。過去作でもリーダーのケヴィンが同性愛者として生きる苦しみを歌い、性的虐待を告発された設立メンバーの解雇など様々な困難に直面してきた彼らだが、音楽を作ること/自己表現をすることは、一種のセラピーでもあったのだろう。

ベアフェイスの美声が轟く、ほとんどボン・イヴェールのような賛美歌“Dear Lord”は、国籍や宗派すら超えて胸を打つものがある。ケヴィンは年内に出すもう1枚のアルバムで最後だと公言しているけど・・・・サクッと撤回する気もしますね。(上野功平)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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ブロックハンプトン ロードランナー:ニュー・ライト、ニュー・マシーン - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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