9月08日、今年の「クレバの日」にサプライズで配信リリースされた9作目のアルバム。前作が方向性の異なる楽曲を詰め込んだミックステープとしての作品だったのに対し、本作では一本の太いコンセプトが貫かれている。それは、攻撃性を極力排し（唯一王者の牙が剥かれる“Paradigm”は-BONUS TRACK-として収められる徹底ぶり）、ネガをポジに反転させ、自らと聴き手をひたすらに鼓舞することだ。《君が意を決して そこにいてくれることが俺の存在を証明してる》（“Finally”）。《マイナス＋マイナス＝マイナス／その＋をうまく斜めにずらす／マイナス×マイナスでプラス》（“よ　ゆ　う”）。《皆で踊れる日を　待ち侘びてる／消えないこのエネルギーも　思いも全部　音に乗せる／乗り越える先で何が見える？》（“All Right”）。こうしたリリックが、エッジーに突き刺すことより広くスムーズに聴き手に溶け込んでゆくことを優先したと思しきポップで端正なトラックに乗せて放たれる。

出口の見えないトンネルを進むような現在、KREVAは自らが光となって輝くことを選んだのだ。（長瀬昇）

『ROCKIN'ON JAPAN』11月号より