2017年にリリースされた“ずっと、ふたりで”以降からの選曲と新曲によって構成されたデビュー10周年記念ベストアルバム。これを聴くと改めてよくわかるが、
家入レオはテレビドラマの主題歌をコンスタントに歌っている。そういう機会が続いた理由として大きいのは、やはり歌の風味なのだろう。世界、感情、風景を的確に表現し、リスナーの心の奥底に届けることができる彼女の歌には物語が自然な形で刻まれている。歌を耳にした人のイマジネーションを活性化しつつも、自由な想像を阻む感情過多な声の響かせ方をしない歌唱スタイルがとても心地好い。朗読の名手を思わせるような物語に対する絶妙な間合いを常に保っている。だからこそテレビドラマを彩る主題歌としての役目を鮮やかに務めるだけでなく、タイアップではない曲でも様々な物語を届け続けてくれているのだと思う。「語り部シンガー」とでも称したくなる表現を着々と磨きながら歩んでいる彼女は、サウンドの流行がどれほど移り変わろうとも輝きが決して失われるはずがない「歌」の魅力をこれからも多彩な形で示してくれるはずだ。(田中大)
『ROCKIN'ON JAPAN』3月号より