昨年のアリーナツアーから、さいたまスーパーアリーナ公演を中心に構成された映像作品。桑田佳祐ほどのビッグネームが、コロナ禍にツアーを繰り広げるということ。その大きな覚悟と入念な準備については、完全生産限定盤同梱の「まんぷくディスク」のドキュメンタリー映像に触れれば理解してもらえるだろう。桑田は人々の抱く不安を直視したうえで、コロナ禍と闘うライブエンタメを作り上げた。「口先だけの腰抜け野郎」という意味のタイトルは桑田一流のアイロニーであって、根性と執念が巨大な歓喜の礎になっていることがよくわかる。ライブ本編は、裸一貫のギターを掻き鳴らしてオーディエンスとの心の距離を一気に詰める“それ行けベイビー!!”に始まり、“炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]”の熱い歓待、人の世の苦しみとコロナ禍を重ね合わせる名演“どん底のブルース”、戦火の悲しみが胸を打つ“鬼灯(ほおずき)”など、新旧の楽曲から今の我々に必要な歌ばかりが次々届けられる。苦しい時代にも音楽は我々の側にあるのだということを、渾身の力で証明する凄まじいパフォーマンスだ。すべての音楽ファンに観てほしい。（小池宏和）

『ROCKIN'ON JAPAN』6月号より