人の胸を打つ表現とは? この問いに対する回答は様々な形がありそうだが、「新しい視点を受け手に提示する表現」というのは、有効なもののひとつだろう。ヤバTも、まさしくそういうバンドだ。彼らの音楽の核にある感情の多くは、実は切ない。音楽シーンに対して感じる戸惑いが伝わってくる“dabscription”、コンプレックスを題材とした“ダックスフンドにシンパシー”、タイトル通りの悲しみを歌っている“俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ”“職務質問 ~1日に2回も~”、期日を守れない自分に嫌気が差している“くそ現代っ子ごみかす20代”など、今作に収録されている曲の大半も、真正面から受け止めたら精神的に疲弊しかねない感情が根底にある。しかし、それらを粋な笑いに転じる視点を提示し、痛快な音を鳴り響かせているのが本当に素敵だ。こういう創作姿勢は、悶々とした感情を生命力に満ちた音へと転じるパンクロックに近しい……いや、パンクそのものと断言したくもなる。ヤバTを聴くと明るい気持ちになると同時に、なんとも言えず心動かされてしまう理由は、ここにあるのだと思う。(田中大)
(『ROCKIN'ON JAPAN』4月号より)
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