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1曲目の“退屈日和”を聴いて、退屈とはどんな感情・状態であるかについて改めて思い巡らせた。多くの場合、友人や家族との別れ、失恋をはじめとしたドラマチックな出来事を乗り越えたあとに身を置くことになるのは、なんてことのない退屈の季節であり、水上えみり(Vo・G)はこの曲を通して、その非ドラマチックな日々(および、その中に微かにうごめく生々しい感情)を豊かな筆致をもって鮮やかに描き出してみせた。岡田安未(G・Cho)のギタープレイも見事で、その鮮烈な響きはまるで、放出する先を探して昂るエネルギーを瑞々しく体現しているかのよう。長い人生を生きるうえでは、時に大切な人との別れは避けられないかもしれない。それでも、時おり訪れる退屈の季節もなんだか悪くないような気がする。この曲には、そう思わせてくれるような温かな優しさが満ちていて、心を救われる。《猫にしか話せない》切実な本音を歌う“マリッジブルー”や、既に新たなライブアンセムと化している“Hangover”も素晴らしい。(松本侃士)(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年12月号より抜粋)
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