このバンドが現在のシーンのなかでどれだけ特別な存在なのか。このDVDを観てもらえば、一発で伝わると思う。アーケイド・ファイアが初めてとなる映像作品をリリースする。別になにか特別な瞬間やキャリアのハイライトが記録されているわけではない。むしろ『ネオン・バイブル』のレコーディング風景やそのツアーの映像が淡々と断片的に繋ぎ合わされた形で作品は進んでいく。けれど、その映像はどんなチャートや報道よりも雄弁に語るのだ、このバンドが現実から目を背けず深くコミットしていることを、そして、なによりも性善説を貫き通していることを。監督を務めたヴィンセント・モリセットは、そうした現実の性善説が、にじんだインクや手振れした残像や、ハレーションを起こした闇のなかにしか存在しないかのように映像を編んでいく。まるで幽霊のように、そうした形でしかこの時代に性善説は存在できないのかもしれない。けれど、ケベック州モントリオール出身のこのバンドは確かに存在している。俗な意見を言えば、もう少しまとまったライブ映像を観たい気持ちはある。でも、この作品にはそれ以上のものがある。（古川琢也）