『ROCKIN'ON JAPAN』がお届けする最新邦楽プレイリストはこちら
別れの歌。だが、そこに悲しみだけでなく祝福や肯定のイメージが喚起されるのは、吉田右京が歌う言葉と、繊細にアレンジされたサウンドが重なることで生まれるマジックだ。《「別れよう」なんて笑えない/運命じゃないなんて言わないで》と歌う最初のサビの背後で脈打つドラムに宿る「それでも時間は進み、人生は続く」という実感。物事が動き出した瞬間の恐ろしくもソワソワとした感覚。そしてラスト、《忘れたい忘れたくないよ/嫌いになんてなれないよ》と、まだ何を終わらせることもできない人の心の内側が歌われる時、そこには盛大なストリングスとコーラスが重なり、物語の「ひとまず」のフィナーレが華やかに彩られる。言葉だけでもなく、サウンドだけでもなく、その両方が重なることで、描かれていない主人公たちの「これまで」と「これから」すら想像させる。そのストーリーテラーぶりこそマルシィの強みだろう。そして、聴き手がたどり着く未来によって、この曲の意味合いもまたいくらでも変わっていく。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年11月号より)
『ROCKIN'ON JAPAN』11月号のご購入はこちら
*書店にてお取り寄せいただくことも可能です。
ネット書店に在庫がない場合は、お近くの書店までお問い合わせください。