まるで、ヤン・シュヴァンクマイエルの手によるシュールな映像作品にも似た、現実と幻想とをモンタージュした不可思議な世界観は、ここでも変わらず存在している。音に取り囲まれた瞬間に、足元がぐらついて天地がひっくり返ってしまう迷宮サウンド、緻密なだまし絵的アンサンブルでリスナーを陶酔させる術は、さらに高度で、洗練されたものとなった。前作から４年ぶりの、メジャー３rdアルバムは、ミュー的な世界、その芸術性の高さをとことんまで濃縮した作品だ。なんて言うと、いらぬ敷居を作ってしまいそうなので付け加えると、とても温かみに溢れた楽しいアイディアが詰まったアルバム、である。前作が寒い時期に制作されたのに比べ、今作は農家の家屋で焚き火を囲みながら録音された曲もある、ということも温かさに繋がっているかもしれない。そしてそれ以上に、いかに聴く者に想像をさせるかという呪文のようなループ性や余韻を持たせたアプローチよりも、ダイレクトな表現となったことも影響している。音そのものがカラフルで立体的、肉感的なのだ。ドリーム・ポップが意志を持って動き出し、世界を飲みこみはじめた。（吉羽さおり)