彼方からの帰還の手紙
マッシヴ・アタック『スプリッティング・ジ・アトム』
2009年10月04日発売
2009年10月04日発売
デジタル配信
最初に鳴らされた一音が、彼らが戻ってきたことを端的に告げる。ベスト・コンピレーションなどはあったが、オリジナル・アルバムとしては2003年の『100th Window』以来となる新作を来年リリースするマッシヴ・アタック。本作はそのパイロット盤とも言える4曲収録の音源で、デジタル配信のみでリリースされる。となると、大体こういうものはマニアックなファン向けのものになりがちだが、できる限り早く聴くことをお薦めする。ニュー・レイヴ以降、ダンス・ミュージック・シーンはアッパーな方向に振れ、その結果玉石混交とも言える状態になってきたが、やっぱり最終的に鳴らし手の意志を伝えるのは音のクオリティなのだとこの音は教えてくれる。一音に織り込まれた情報量が格段に違う。特にTVオン・ザ・レディオのボーカル、トゥンデ・アデビンペが参加した2曲目“プレイ・フォー・レイン”は白眉。非常にチル・アウトなムードを持つダークな楽曲だが、3分を超えた後半から徐々に盛り上がりを見せる様は、マッシヴ・アタックのサウンドデザインの哲学がなければできない楽曲。そして、来年の新作に収録予定曲として“サイケ”と“ブレットプルーフ・ラヴ”という2曲のミックス違いが3曲目と4曲目に収録されている。つまり“プレイ・フォー・レイン”は、次回の新作に入らないということだろうか。これだけの楽曲をアルバム告知のイントロに使ってしまうのだから、余程アルバムには自信があるのだろう。『100th Window』はなによりコンセプトがヘヴィな作品だったが、次は全方位でキャリアをかけた作品になりそうな予感がする。(古川琢也)