ファースト・シングル“アイ・ラブ・カレッジ”で突然登場したのが、これまでにまったくない新しいタイプの白人ラッパーである、このアッシャー・ロス。ある意味で、白人・黒人という位置づけとはまったく無関係に、ヒップホップ・アーティストとしてまったく新しいタイプかもしれない。というのも、ヒップホップではどんなMCでも絶対的に重要な強烈なアンチをなにかしらの形で持っているはずなのに、それをまったく打ち出さず、へたれな自分の現在をディテールに至るまで詳細に描写するというのがこのアッシャー・ロスの身上だからだ。フロウ的にはいかにもジェイ・Zやカニエ・ウェスト、エミネムらを聴いてきたというクセを感じさせつつ、明らかに白人的な語りになっているところがとてもリアルで、間違いなくこのパフォーマンスは強いフックを誇っている。プロデュースも素晴らしくヒップホップというよりコンテンポラリー・ロックに近いサウンドを打ち出しているところがアッシャーのMCの空気感とよくマッチして大正解。ゲスト陣もなにげに充実していて、間違いなくこの先の行方が気になる狼煙を上げた作品。(高見展)