これまでファイナル・ファンタジーという名義で活動をしてきたトロント出身のオーウェン・パレット。今回の日本デビューを機に、本名でやることにしたらしい。パレットはストリングス・アレンジャーとしても一線で活躍する人で、代表的な仕事といえば何といってもアーケイド・ファイアの2枚のアルバムである。一方でアーティストとしても活躍していて、前作はアメリカでとてつもない高評価を得た。本作は3枚目。
アレンジャーとして一流の才能であるので、当然音符の配置のすべてが理に適っている。意味のない音は鳴っていない。エレクトロニカが入ってこようがクラウトロックが入ってこようが、音の規律はしっかり守られている。それだけなら「職人気質の秀作」なのだが、この人の場合それでは済まない。職人気質の一方、自由で豊饒なイマジネーションが爆発していて、両者が力いっぱい綱引きをしているようなバランスが聴き手を引き込むのだ。前衛でも実験でもなく、誰にでも理解できる筆使いで、誰にも描けない絵を生み出す。それこそアートの醍醐味であると同時に、アートにとって最大の困難でもあるのはいうまでもない。(小川智宏)
簡単に抽象に逃げない
オーウェン・パレット『ハートランド』
2010年01月27日発売
2010年01月27日発売
ALBUM