内なる宇宙、未来の種

フライング・ロータス『コスモグランマ』
2010年04月21日発売
ALBUM
フライング・ロータス コスモグランマ
高速の逆再生映像で植物や動物の誕生の瞬間に立ち戻っていく、その神秘に迫っていくドキュメンタリーってよくディスカバリーチャンネル等でやっているけれど、このアルバムを聴いて真っ先に瞼の裏側に浮かんできたのも、何故かその類の映像だった。凄まじい勢いで見たことも聴いたこともない音楽の未来が切り開かれていくようでいて、同時に凄まじい勢いで音楽のプリミティブなかたちが再び掘り起こされていくようでもある。そして突破と回帰が奇跡的に両立したその美しきカオスの中にトム・ヨークのボーカルが滑り込んでくる瞬間(“…And The World Laughs With You”)、毛細血管が一気に広がっていくような新たな感覚が待ち受けている。これはとんでもない代物だ。45分45秒に亙って繰り広げられる未知の快感と、どこか懐かしい郷愁と、発見と、恐れと、喜びがごちゃまぜになったこの体験の先に待っているものをざっくり喩えるなら、宇宙。夜空の彼方のそれでもいいし、ミクロコスモスとしてのそれでもいい。

レディオヘッドやマッシヴ・アタック、そしてポーティスヘッドがフライング・ロータスに魅了されてきたのは、彼の音楽が最先端のビート・ミュージック、エレクトロニカの格好のサンプルとして鳴っていたからではないだろう。音楽の未開地を切り開いていくだけではなく、揺ぎ無く豊穣な太古のルーツに向かって逆再生されていくその永久のサイクルこそが、フライング・ロータスを賞味期限の短い凡百のトレンドセッターと分ける決定的な差である。終わりと始まりの狭間で永遠を約束された名盤である。(粉川しの)
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