これまでも、これからも、NEEは私たちのヒーローで在り続ける。日比谷野外大音楽堂「東京、夏のサイレン」を観て
2024.06.23 21:15
くぅがいなくなって、一度は中止を決めた、日比谷野音での「東京、夏のサイレン」。でも、夕日やかほや大樹、くぅのご親族、スタッフのみなさんが、きっと私たちには想像つかないくらいにたくさんのことを考えて、やっぱりやるんだと決めた、「東京、夏のサイレン」。
くぅの生前の歌声を流しながら演奏したパートも、盟友・PEOPLE 1が登場して一緒に歌ったパートも、かほと夕日(ちょっとだけ大樹も)がボーカルを務めて3人でNEEの曲を鳴らしたパートも、全部全部、涙なしには見られなかった。
「今日は弱音は言わないと決めた」「今回のことを美談にしたくない」と、強く優しく在ろうとした夕日。泣いたり叫んだりしながらくぅへの愛を誰よりも率直に露わにしたかほ。いつもみたいに時々笑いを交えたMCで和ませながら、力の込もったドラミングでバンドを支えた大樹。今日の3人の姿を観ていたら、そうだよ、NEEにはこんなに熱いギターヒーロー、ベースヒーロー、ドラムヒーローがいるじゃんって思った。くぅは確かにみんなのヒーローで、ステージの真ん中に彼がいないのはあまりにも悲しいけど、3人がいる限り「NEE」はみんなのヒーローで在り続けるんだって思えた。どこかで観てたはずのくぅも、3人のことをすごく頼もしく思ったんじゃないかなぁ。
3人は「これからも3人でNEEを続ける」「NEEが続く限りくぅの人生は終わらない」と力強く宣言してくれた。今後の活動がどんなふうになるかはまだわからないけれど、今は「NEEは終わらない」という事実が何よりも嬉しい。とはいえ、涙を乾かすために走り続けるのはどこかで疲れちゃうだろうから、無理せず、自分たちのペースでね。みんな、いつでもNEEを待ってます。
最後に、ROCKIN'ON JAPAN7月号(5月30日発売)に書いたくぅへの追悼文をここにも掲載します。
悲しい気持ちに区切りをつける必要はないし、彼がいない日々に生まれる、楽しい気持ちを否定する必要もない(Deuもそんなことを言ってた)。ふとした時に思い出して、笑ったり泣いたりしながら、生きていけばいいのだと思います。くぅが作った素晴らしい音楽は、これからも私たちのそばにあるのだから。(安田季那子)
───
NEEのボーカル、くぅこと村上蔵馬が亡くなった。享年25歳。突然の別れに、知らせを聞いた日からずっと、気持ちの整理がついていない。この訃報に際して、メンバーや近しいアーティストたちが言葉にしている「ヒーロー」という形容がまさにとっても似合う人だった。だったというか、くぅの存在や彼の音楽は、私たちにとってこれからもずっとヒーローで在り続ける。それだけに、この喪失はあまりにも大きい。
バンドカルチャーもネットカルチャーも多様なジャンルも全部飲み込んだそのカオスな音楽性に貫かれていたのは、くぅの繊細で鋭い、そして意地とも言えるような「生きること」への眼差しだったと思う。孤独に苛まれたり、ときどき諦めてしまいそうになったりしながらも今日をなんとか生きている。そんな人たちにとって、くぅの《誰よりも脆く弱く生きてたい》(“本日の正体”)という叫びがどれほど救いだったことか。くぅはインタビューで「自分のことを救いたくて曲を作ってるのかな。自分がそれで救われたんであれば、きっと同じ人がいると思うから」と話していたが、特にアルバム『贅沢』以降は、自分の弱さも曝け出す勇気を手に入れたことで、より一層、みんなの弱さに寄り添う想いが覚醒していた。NEEのライブは、くぅを追いかけてフロアがうねりを打つように動くのが特徴的なのだけど、そうやって彼に向かって手を伸ばしたくなる気持ちはよくわかる。そこにいる一人ひとりと繋がりながら全体を抱きしめるような「でっかい優しさ」が最近のNEEからは溢れていた。くぅが何度も言う「みんな愛してます」という言葉を聞きながら私は、くぅはきっと、NEEを愛してくれるみんなを愛することと、自分を愛することとの相互関係に気づいたんだろうなと思っていた。だとしたら、これからNEEはもっと大きくなる。そう思っていたのだ。
最後のライブになったのは、5月4日のJAPAN JAM。SUNSET STAGEのトップバッター、初のメインステージだった。以前彼らのワンマンを観に行った際「メインステージは今日の10倍近いキャパだからね」「やべえ!」なんて会話をしたのをよく覚えている。それくらい大きな挑戦の舞台だったわけだが、しかしてそこに広がっていたのは、感動的なほどの大観衆の景色だった。あの光景を、くぅはどんな想いで見ていたのだろう。あそこにいた全員が、それ以上の人々が、きみのことを愛してるよ。その音楽に、これからも救われ続けるよ。
くぅ、どうか安らかに。夕日とかほと大樹が守っていくであろうこれからのNEEを、どこかで見守っていると信じてる。
───