インタビュー=杉浦美恵
──2025年11月に行われたワンマンライブ「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」は、これからのDUSTCELLをポジティブに予見させる、素晴らしいライブでした。「生きろ」というより「生きてほしい」っていうのが、このアルバムに通底しているテーマなのかなと、あとから自分でも思いました(Misumi)
EMA 東京も大阪も、歌に関しては今までのライブでいちばんよかったなという実感がありました。ライブ自体も本当に、チームDUSTCELLが一丸となって成し遂げられたという感覚があって、ほんとにいいライブだったなって思います。でも、私にとってライブは、来てくれた人みんなに自分の生命エネルギーを分け与えているような感覚というか、命を削って歌っているような感じがあって、終わったあとには反動がガツンとくるんですよね。だからこそ、そのライブをお客さんに喜んでもらえたならよかったと思えるし、今回はすごくいいライブができました。
──Misumiさんは「月の裏」をやり終えて、どんな感覚でしたか?
Misumi ライブはいつも、足を運んでくれた方に何かしらの変化を与えるようなものにしたいと思っていて。自分もEMAも全身全霊でライブをしているんですけど、今回は今まででいちばんお客さんの顔を見ながらライブができました。笑ってる人、泣いてる人、いろんな感情で観てくださっている方たちの表情を見ることができて、お互いのエネルギーの交換というか、こちらが送ったものが向こうからも返ってくる、そういうライブだったなと思います。
──新作アルバム『碧い海』が完成して、その中の1曲として “後書き”という曲をライブでも初披露していましたよね。「生きていく」という決意が滲む、胸に沁みる歌でした。このテーマはアルバム全体のテーマとも繋がるものですよね。
Misumi そうですね。このアルバムを作っているとき、身近なクリエイターさんが亡くなったり、周りに生きづらさを抱えた人が多いなと切実に感じていて。そう思って曲を作ると、自然と「生きてほしい」という祈りのような歌詞が増えて。そういうことを書いても誰も救えないんじゃないかと考えることもあったんですけど、今年の7月に「DUSTCELL EXHIBITION - MONOLITH - 」という展覧会を開いたとき、来場者の方が書いてくれたメッセージカードを全部読んだんです。そこには「救われた」というコメントがすごく多くて、そこで自分の書いた歌にも意味があったんだと実感することができました。だから“後書き”という曲は、「救いたい」という思いを込めた歌なのかなと思います。「生きろ」というより「生きてほしい」っていうのが、このアルバムに通底しているテーマなのかなと、あとから自分でも思いました。
──DUSTCELLの楽曲として、そうしたテーマは以前からあったものだとは思いますが、今作では「生きる」ことと「音楽」というものが強くイコールで結ばれて、これまでになくポジティブにそのテーマが表現されていると感じました。
Misumi 歌詞1行で聴いた人の心を変えてしまう可能性もあるから、作詞は怖い側面もあると思うんです。初期は、絶望を絶望のまま吐き出していたけれど、その暴力性みたいなものを考えるようになってしまって。なので、そこは初期と変わったところで、“後書き”も、最後には「生きてほしい」というメッセージになっているというか。最後から2行目の《作者は自分だ 他人じゃない》というのがいちばん伝えたいところで、他人の言葉に苦しんだり、他人から影響を受けすぎて苦しんだりすることもあるけれど、やっぱり自分の人生を書いているのは自分自身だということを伝えたいと思いました。
──EMAさんは、この曲のデモを受け取ってすぐに「いい曲だ」と思ったとライブで言っていましたよね。どういう部分が刺さりましたか?
EMA 2番に《顔も知らない人の/薄情な言葉に傷ついた》というフレーズがあるんですけど、そこがすごく刺さりました。私は、匿名の人からの誹謗中傷に傷ついたりしたこともあって、その傷が今も傷痕になってる感じなんですけど、それ以上に素敵な出会いがあったり、自分のことを守ってくれる人が増えて、だんだん心が大丈夫になっていって。だからそれは今「傷痕」だと言えるんですけど、当時くらった言葉がフラッシュバックしてしまうこともあります。受け取る側の気持ちを深く考えずに匿名で誹謗中傷する、その危険性をわかってない人たちが現代社会にはたくさんいて、そういう人たちにはもう、この曲で歌っていることは通じないと思うけれど、まだ人間の心が残っているうちに、このフレーズがたくさんの人に響いてくれたらいいなと思います。
──リード曲となる“青”は、疾走するドラムンベースサウンドで、DUSTCELLの新機軸を感じさせる曲でした。“畢竟”は高い、速い、難しい(笑)。でもこの曲のデモをもらったときに、ファーストインパクトで大好きな曲になった(EMA)
Misumi 編曲をぎゅる子さんという方にお願いしているんですけど、ぎゅる子さんの曲は個人的に2025年に聴いた曲の中でいちばん好きだと思うくらい愛聴していたんです。ぎゅる子さんの曲はIDMっぽいサウンドなんだけどポストロックの要素が入ってくるところがすごく面白いなと思っていて、そういう部分で“青”も面白い化学反応が起きたなって思います。
EMA この曲はかなり難しいけれど、歌っていてすごく楽しかったです。あと、2Aの歌詞に、《クロードモネの絵画》が出てきたことに驚きました。個人的に絵画を鑑賞するのは好きなんですけど、画家についてはあまり詳しくなくて。でも、クロード・モネだけはすごく好きだったんです。これまで特にMisumiさんに「モネ好きなんだよね」って言ったこともなかったのに、その名前が歌詞に出てきて。DUSTCELLってそういう偶然がよく起こるんです(笑)。
──そして “畢竟”は『崩壊:スターレイル』に登場するキャラクター、黄泉のイメージソングとして書き下ろしたものでしたが、今思うとこの楽曲も今回のアルバムのテーマに沿う曲でしたね。
EMA 《変わらずを願えども/変わらずにはいられない》っていう歌詞は『碧い海』のコンセプトに通じていますよね。変わりたくないけど、環境が変わればどうしても価値観が変わってしまうこともあるし。たとえば小学校のときにすごく仲良かった女の子が、その後別の学校に行って、高校生になって久しぶりに会ってみたら全然話が合わなくなってたとか。自分が置かれる環境によって人間って形成されていくと思うんですよね。この曲の中でこの歌詞がいちばん好きです。
── “畢竟”は歌唱的にはかなり難度の高いものだと思うのですが、EMAさんの歌が気持ちよく響いてきて。この曲は歌ってみてどうでしたか?
EMA おっしゃる通り“畢竟”は高い、速い、難しい(笑)。でもこの曲のデモを貰ったときに、ファーストインパクトで大好きな曲になったので、歌えてよかったなと思います。
──Misumiさんは“畢竟”にはどんな思いを込めましたか?
Misumi “畢竟”っていう言葉が「死」を意味するものでもあって、この曲もやっぱり「生きる」ということがキーワードになっているんですよね。「死」については日頃はつい忘れがちなんですけど、「死」を意識するからこそ、今日を生きられるような気もします。
──アルバムでは“畢竟”の次にある“音楽”という曲が、とても素敵な曲だと思いました。スタイリッシュなトラックとEMAさんのラップの魅力も堪能できて、歌詞は「音楽」と「人生」を重ねた洒落た表現。心軽く、人生を考えるような感覚もあります。
Misumi そうなんですよね。これは今回のアルバムでは最後の最後に作った楽曲ですが、なんとなく、シリアスな曲を書きすぎたなという思いがあって。だからこの曲に関しては特に意味はないんです。この曲に関しては「伝える」というよりも「楽しもう」っていう感覚で歌詞を作りました。ほとんど音楽用語やDTM用語で言葉が紡がれていて。思い切り楽しんで作りました(笑)。
EMA メロがめちゃめちゃキャッチーで、私もフィーリングで楽しく録音したんですよね。サビ以外のハモリは全部自分で好き勝手に入れたりして、楽しんで作りました。