一人で歌ってもハーバート

マシュー・ハーバート『ワン・ワン』
2010年04月28日発売
ALBUM
マシュー・ハーバート ワン・ワン
2010年、ハーバートは本人名義で3部作のアルバム・リリースを予定しており、本作はその第一弾である。本作のテーマは、彼が全ての作曲、楽器演奏、録音、プロデュースを行うという試みで、全編に亙ってボーカルが収められていることも大きなトピックとなっている。要するにハーバートの宅録アルバムなのだが、いわゆるローファイ/ローテクな手作り感とはまったく無縁な作風であり、高品質サンプリング・ミュージックの寵児、面目躍如という印象の、あらゆる面で優れたポップ・ソング集になっている。

幽玄の美を響かせる楽曲はもちろんだが、なにしろハーバートの歌が良い。囁くような穏やかな歌なのに、脳の奥にまでスッと入り込んでゆくようだ。本作の後、シリーズ2作目にはクラブで2時間採取した音を素材にした作品が、そして3作目には養豚の一生をテーマにした作品が控えているという。先頃、動物愛護団体がこの3作目に抗議を唱えていたが、彼の作品に少しでも触れたことのある者なら、彼がそんなお騒がせ目的で活動する表現者ではないと分かるはずだ。3部作が無事発表されることを、切に願う。(小池宏和)
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