よく言われる「アーティストがブレイクする」というタイミングは長いキャリアの中で一度しか訪れない。
仮に現在スタジアムライブを行える規模に巨大化したアーティストであっても、なだらかだった折れ線グラフが突然垂直に近い急勾配に変わるタイミングに味わう興奮は生涯忘れられないものだろう。
そしてその入り口、例えていうならコップに注いだ水が淵を超えて溢れてしまうギリギリの手前、それを「ブレイク前夜」と呼ぶなら、マカロニえんぴつにとって2020年春にリリースした『hope』というアルバムはそれだった。
この傑作アルバムを経たことで、やがて迎えるであろうブレイクをアーティスト自身、そしてファンの誰もが確信した。それはとても青春的な季節だ。だからその時期に行われるライブはアーティスト人生の中で一度切りのものになる。ステージ上も客席も、ブレイクに突き進むプロセスの真っ只中に居ることに興奮し感動しそれをエンジョイする。
そんなライブになるはずだった『hope』のツアーは、しかし突然勃発した新型コロナのパンデミックにより開催中止を余儀なくされてしまった。
その時僕はマカロニえんぴつとはなんと不運なアーティストなのだろうと思った。なによりアーティスト自身の無念さは計り知れなかった。
いつ明けるかわからない新型コロナの闇の中でマカロニえんぴつはメジャーデビューをして、そして『hope』から一年半後、"なんでもないよ"のメガヒットにより大ブレイクを果たした。それはコップに溜まりに溜まった水が突然滝のように溢れ出すような光景だった。
そこから3年、彼らは邦ロックの最重要バンドとしてシーンのトップを担い続けている。
その間、武道館、さいたまスーパーアリーナをはじめ全国のアリーナに立ったマカロニえんぴつは、この6月、横浜スタジアム2デイズに挑む。
そんなタイミングに5年遅れで突然『hope』のツアーが再演された。いや、再演ではなく初開催だ。先日その東京公演Zepp
Divercityの二日目を観た。
感動的だった。しかし"レモンパイ"、"恋人ごっこ"、"ブルーベリー・ナイツ"、"ヤングアダルト"これらの名曲が一枚のアルバムに収録されていた、という事実に今更ながら驚く。
アーティスト自身も満員のオーディエンスも、今のマカロニえんぴつのポジションを実感しながら、本当は通ることが約束されていた青春時代を追体験している。なんと形容したらよいかまったくわからない時間軸を超越したとても濃密で贅沢な二時間弱だった。(海津亮)
マカロニえんぴつ、ブレイク前夜の傑作『hope』のツアーを2025年の今初めて目に焼き付けるという特別な体験
2時間前