記号化された世界をサーフする
イズ・トロピカル『ネイティヴ・トゥ』
2011年06月01日発売
2011年06月01日発売
ALBUM
キツネの嗅覚はいつだって正しかったが、一昨年から今年にかけてのトゥー・ドア・シネマ・クラブの躍進はさらに大きな意味を持っていたように思う。ダンスフロアだけじゃなく、ベッドルームでも街中でも、その洗練性が等しく耳を捉え、本来なら聴き手を「選ぶ音楽」が、誰にでも「選ばれる音楽へ」と変わっていく(なんだか渋谷系)という点では、このイズ・トロピカルも大きく化けるような気がする。3人揃って目から下をスカーフでアフガン巻きにしたルックスこそ攻撃的だが、サウンドのほうは極めてロマンチックで、いい意味で均整の取れたポップ・ミュージック。先だっての『RADARS』でのライヴでも明らかだったが、スペイシーでシンフォニックなシンセ・サウンドを軸に、削ぎ落とされたギター・ミュージックの性急さと一発で耳を捉えるメロディが加わった、極めてロンドンらしいバンドだ。バンド名もアルバム・タイトルも、それこそ風体も、「すべてを言わない」という徹底した匿名性を利用したバンドはネット時代において少なくないが、それを逆手にとって一歩先を行こうとする、余裕のポップ・ミュージック。(羽鳥麻美)