情念を超えて響くパワー

セイント・ヴィンセント『ストレンジ・マーシー』
2011年11月23日発売
ALBUM
セイント・ヴィンセント ストレンジ・マーシー
ポリフォニック・スプリーのメンバーとして、また、スフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして活躍してきたアニー・クラーク。2009年にセイント・ヴィンセント名義でデビューした彼女だが、本3作目で日本上陸、年明けには早くも来日公演が決まっている。女性シンガー・ソングライターの枠に収まらない存在感という意味ではすでに1stの頃からその片鱗は見せていたが、本作の突き抜けぶりは圧倒的。すでに海外メディアでは軒並み満点に近い評価を獲得していて、それはひとえにこのアルバムに貫かれる言葉の鋭さだ。映画『クロエ・イン・ジ・アフタヌーン』にインスパイアされ、背徳の美をファストに描き切るオープニングから強烈な個性を放つ。名門バークレイをドロップアウトしたアニーの声と、テクニックとエモーションのいずれにおいても説得力のあるギターをはじめとするインストゥルメントは、クラシックとロックの狭間を射抜く実験性に満ちている。何よりすごいのは、息つく間もないくらいに疾走していく物語が、あくまでも彼女自身の孤独と気高さから紡がれていること。稀代のソングライターである。(羽鳥麻美)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on