歌の重力を引き剥がすということ

ロシアン・レッド『フエルテンベントゥーラより愛こめて』
2011年12月07日発売
ALBUM
ロシアン・レッド フエルテンベントゥーラより愛こめて
“ザ・サン・ザ・トゥリーズ~木漏れ日の下で”で聴く者すべての心を軽やかにかき混ぜるように音階を上下し、“アイ・ヘイト・ユー・バット・アイ・ラヴ・ユー”では痺れるような甘美さと憂いを鼓膜越しに全身に流し込む……「深い」「沁みる」「熱い」「切ない」とか、女性アーティストの歌を評価する形容詞は数多あるが、このロシアン・レッドというソロ・プロジェクトを展開するスペイン・マドリッド出身のシンガー・ソングライター=ルルデス・エルナンデスの歌の最大の魅力は「浮力」だ。現実に横たわるヘヴィネスやネガティヴィティに囚われることなく、己の情念や内省を引きずることもなく、神秘的なまでの浮力でもって僕らの脳裏を吹き抜け、漂白していく……それはひとえに、彼女自身の「音楽に絡みつく重力を自らの批評精神で引き剥がしていく」という天性のファイティングポーズの賜物だろう。ということが、トニー・ドゥーガンのプロデュース&ベルセバのメンバーの協力を得て完成した今作からも伝わってくる。欧米の注目度は高まる一方の彼女。その歌が世界を吹き抜ける瞬間がすぐそこまで迫っていることを感じさせる名盤。(高橋智樹)
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