ここ数年のUSオルタナティヴのテーマとなっていたのは、内省と回帰だったと言えるのではないだろうか。アメリカという国への内部告発、アメリカ人のアイデンティティの崩壊と再構築、そしてアメリカで音楽をやること自体への深い思索。アーケード・ファイア、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー、モデスト・マウス、スフィアン・スティーヴンス等、近年の優れたオルタナ・バンド達は一様にそんな自己を「見つめなおす」作業を経て初めて音を鳴らしていたように感じる。もちろんそれは意義深い傾向性であったし、9・11以降のカオスを直視することとイコールの必然であったとも思う。しかし、そんな内省と回帰は過程であって、目的化するべきではないということを、次なる扉を開けるべき時が来たと、TVOTRの新作は高らかに告げている。
本作は敏腕プロデューサーとして様々なバンドの構造変革に手を貸してきたデイヴ・シーテックの表現欲求がマックスで炸裂した作品であり、同時に未だかつて無いほどそのプロセスの全てがオープンに曝け出された1枚である。しかもプロセスは整理され、1曲1曲のカテゴリー、テーマが明確に色分けされている。コンプレックス・アート然とした前作までの彼らと比べると、シンプルすぎるきらいすらある。しかし、本作のシンプリシティは物事の単純化を意味するものではない。本作の制作において大きな原動力になったのは「完璧なものなんか存在しない」という認識であったと、今回のインタビューでツンデは語っている。そう、ポップ・ミュージックの力は清濁を飲み込み、高次の価値を付加していくことにこそある。私達は、前に進まなければならないのだ。(粉川しの)