「ヴィンテージ機材」ファイ

ベスト・コースト『ジ・オンリー・プレイス』
2012年05月09日発売
ALBUM
一昨年のファースト・アルバム『クレイジー・フォー・ユー』の時点で、ビタースウィート度全開だった。気っぷのいいヴォーカルは、かっこよくてかわいい。がしゃがしゃしたガレージ・ロック・アレンジやリヴァーブきつめのローファイな音像にはヴィヴィアン・ガールズあたりに通じる部分もあった。

ベスト・コーストは、女性シンガーとマルチ・インストゥルメンタリストのデュオ(ただしアレンジは「バンド」寄り)。ほぼ同じころファースト・アルバムをリリースしたザ・ドラムスと並ぶ「新しいサーフ・ミュージックの騎手」みたく評されることが多かった。ジャック・ジョンソンらに代表される「今の」それじゃなく、60年前半のザ・ビーチ・ボーイズをはじめとする「カリフォルニア・ポップ」という意味で。

そう考えると、このセカンド・アルバムで彼らは理想的な成長を遂げている。最初は、あんま変わってないじゃん(汗)と思ったが、前作と比べて音質のクオリティが格段に向上している(パッと聴きそう気づかせないところが素晴らしい! つまり、ラフな魅力が減退していないってこと。きついリヴァーブなどは排除しつつ)。本作はLAのキャピトル・Bスタジオで録音されている。まさにカリフォルニア・ポップの牙城だ。プロデューサーは、ジョン・ブライオン。エイミー・マンとの関係で最も知られる(『マグノリア』の音楽監督も手がけた)彼だけに、ベスト・コーストがおとなっぽくなっちゃう? エイミーはそれで最高だけど……といった心配は無用だ(笑)。さすが匠のわざ、見事素材の味を活かしきっている! (伊藤英嗣)